第十夜 蒼天のコマンドメンツ
10-1 反逆の同士
乾いた荒野に湿った風が吹き抜ける。振り返る風上は戦場。見上げる空にはアポカリプス・チャイルドの本拠地“生命の木”が浮かぶ。荒野の出口は程近い。だが、その目前には黒の騎士・ダスクモンが立ち塞がっていた。
「エルドラディモンが……捕縛?」
突如として現れた黒騎士の言葉に、インプモンは眉をひそめて問い返す。
「どういうことだ?」
「そのままの意味だ。奴らはゼブルナイツをその拠点ごとセフィロトモンの内部に取り込むつもりだ。そうなってはもはや手出しできない」
故に、と黒騎士は決断を迫るように私たちを強く見据える。突然のそんな話、信用しようにも時間も判断材料もまるで足りないが、さて。
「ヒナタはどうだ?」
「え?」
共闘を持ち掛ける黒騎士に、喉をこくりと鳴らしてインプモンの返答を待てばしかし、口をついたのはそんな問い掛け。私は戸惑いに思わず頓狂な声を上げてしまう。
「わ、私?」
「ああ。今の話、っつーかこいつか、どう思うよ」
「どうって……」
気付けば指先に点していた炎も消え、インプモンは黒騎士にも構わずまるで無防備に私に向かって首を傾げる。その深緑の目は真っ直ぐに私を見詰めていた。言わんとしていることは、解るのだけれども。
「意識的に聞き取ったことなんて無いんだけど」
デジメロディとやらのことを言っているのだろう。命の旋律、だったか。確かに私はそれを理由にワイズモンを信用しようと決めたわけだが。すべて無意識のうち、それも余りに曖昧で不確かなものだというに。そう頼られても困ると眉をひそめれば、インプモンは小さく息を吐いて、
「別にそーゆんじゃねえよ。ヒナタがいいなら別にいいかと思って」
あっけらかんと言う。私がいいなら? 意味も解らず首を傾げるとインプモンは困ったように頭を掻く。
「信頼しているのだな」
ややを置いて、そう言ったのは黒騎士だった。信頼……私を? 黒騎士の言葉に視線をやれば、余計なこと言うんじゃねえよとばかり、インプモンは眉間にぐにゃりとしわを寄せる。あら面白い顔だこと。
「いつの間にそんな信頼関係築いたっけ」
なんて茶化してやればインプモンは「うるせーよ」とそっぽを向く。意外と可愛いとこあるのね。そんなインプモンに思わず笑みを零す。
そうして、ならばと私はダスクモンに向き直る。
「一つだけ、聞かせて」
黒騎士の視線が真っ直ぐに私へと向く。澄んだその目に不思議な灯を点して。私は小さく息を飲み、ただ一つを問う。
「どうして、手を貸してくれるの?」
聞きたいことは、聞くべきことは山程あるけれど、彼の言葉が真実であればすべてを問いただす時間はない。何を求めて誰と戦おうというのか。空に浮かぶセフィロトモンと同じ、十闘士でありながら。
私の問いに黒騎士は、戦場を一瞥する。
「友達が、お前たちを信じると言った」
黒騎士の口をついたのは、そんな言葉だった。
「友達?」
思わず目を丸くする。黒騎士は、どこか優しい声色でその名を告げた。
「ミラージュガオガモン」
と言われれば、驚愕を禁じ得ない。
「ミラージュガオガモンが……?」
取り分け驚いていたのはレイヴモンだった。当然だろう。袂を分かったはずの友が、今になって信じるなどと。
「“三日月の谷の約束”」
ぽつりと黒騎士は言う。それが誰に向けられた言葉だったかは、レイヴモンの様子を見れば一目瞭然だった。思わずといった風に、レイヴモンは小さく声を漏らす。
「お前がレイヴモンだな。信じてほしいと、そう言伝を頼まれた」
驚愕、困惑、様々な思いを映すレイヴモンの目が、やがて彼方の空を撫でる。まるで遠い記憶を巡るように。過ぎ去った過去を、懐かしむように。
彼らの間でどんな約束が交わされたのか。私には知る由もないことだったが、それでもレイヴモンの顔を見ればそれが彼らにとってとても大事なものだろうことは、想像に難くない。
「わかった」
レイヴモン、インプモン、そして黒騎士――ダスクモンと、順に目をやり私は、そう頷く。
「信じましょう」
と言えばレイヴモンは僅かな戸惑い。インプモンは上等だとでも言わんばかり。ダスクモンは、変わらず無表情だった。
「で、作戦は?」
インプモンは少し皮肉げに笑いながら溜息を一つ。肩を竦めてダスクモンに問う。そんなインプモンに一度だけ目をやって、レイヴモンは唇を真一文字に結んで膝をつく。意のままに、とばかり。
「俺が戦場を掻き回す。その隙に姿を隠して潜入しろ」
「作戦ってほどじゃねえな」
「無茶をせずに済むような状況でもないだろう」
ダスクモンはそっと目を閉じ、翼を広げるように両腕を開く。やがてその身が光に包まれる。
「さあ、反逆の時は来た」
光の帯が黒の騎士を取り巻いて、その身を包み込む様はさながらサナギのよう。なおも渦巻く帯に、光の繭は見る見る間に肥大する。僅か数秒にその全高はちょっとしたビル程にも達し、と思えば巨大な繭は弾け飛ぶ。
光の中から、黒き翼が化現する。
「“闇のベルグモン”」
黒翼の主は、闇から響くような声を以って己が名を告げる。
暗闇より生まれ闇夜を羽ばたくが如き漆黒の怪鳥――ベルグモン。邪悪と恐怖を体現するかのようなその容貌は、正に天に唾吐く反逆者に相応しい。くつわを並べるとは言え、さすがに身震いする。
「し、進化したの……?」
思わず後退り、誰にともなく問えば答えたのは賢者。
「十闘士のスピリットには人型と獣型の二つがあるのだよ」
「獣型……」
怪鳥を見上げて、嗚呼と一人頷く。成る程、正に獣だ。私はこくりと喉を鳴らす。けれど、
「さて、余り時間もない。話の続きは道中だ」
見た目に反して理性的なその口調には、少しほっとする。
「空から行くぞ。乗れ」
そう言って僅かに屈み、翼をゆっくり地面に下ろす。そしてふと、こちらに目をやって、
「ああ、そのバイクは置いていけ」
怪鳥の言葉にインプモンはしょうがないとばかりに溜息を吐く。
「だな。ベヒーモス、後で合流するぞ」
うおん、とベヒーモスは小さなエグゾーストで応える。それはどこか悲しげな音に聞こえた。確かに空からでは仕方がない、か。
「おっと、僕は連れていってくれ給えよ」
ベヒーモスに「またね」と声を掛け、車体を撫でていると、不意にそう言ったのは賢者だった。そんな賢者にインプモンははんっと鼻を鳴らす。
「心配すんな。お前にはまだ聞きたいこともある」
なんて言い捨てて、インプモンは怪鳥の翼の上をひょいひょいと駆け上がっていく。
「ヒナタ様、こちらへ」
当然私にそんな芸当などできる訳もなく、レイヴモンに促され、彼に抱えてもらうべくその肩に手を掛ける。片手には賢者の魔術書を抱えて。どうやら持って行くのは私の役目らしい。まあいいんだけど。
ふわりと体が浮き上がり、程なく怪鳥の背に降り立つ。
怪鳥はおもむろに翼を広げ、視線は戦場へ向けて問う。
「では行くぞ。覚悟はいいな」
「そんな時間もないんでしょ」
私の軽口に怪鳥の嘴から苦笑が漏れる。そうして怪鳥は、荒野を飛び立った。
10-2 黄昏の天使
水流を削岩機のように貫いて、それは水上へと跳躍する。いや、流線型の体で気流を掻き分け、放射状に生えた触手をスクリューの如く回転させて揚力を得るその様は、もはや飛翔というべきだろうか。水中より踊り出たその飛行体は、空中で次第に回転を緩やかにして、戦場の空に浮遊する。
淡い青と白に彩られた体と触手はのっぺりとして、その容姿を一言で言い表すならそう――巨大な“イカ”そのものだった。
巨大イカは宙で反転し、逆立ちするような格好になる。と、その途端、触手の付け根から人間の女性に似た異形の怪人が姿を現す。その肌は青白く、脇腹にはエラのようなものが見て取れる。さながら半魚人といったところ。下腹部より下が巨大イカと一体化した姿は、人魚の変わり種と言えなくもないだろうか。
名を――“水のカルマーラモン”。水の闘士・ラーナモンのビーストスピリットである。
「はぁ、どこが楽勝よ……!」
上空を一瞥して毒づいて、この作戦の立案者の顔を思い浮かべ舌を打つ。そうして今し方一時離脱した水中の戦場へ目を落とし、今度は大きな溜息を吐く。
メタルシードラモン率いるゼブルナイツ海軍、それは、聞かされていたより遥かに手強い精鋭揃いだった。まだ手傷は負っていないけれど、今のこの消耗を考えればそれも時間の問題か。先程駆け付けた援軍もはっきり言って“いい勝負”というくらい。
一体あの怪人鏡男は何を見て楽勝などとのたまったのか。そもそもなぜ女の子を戦場に送り出しておいて男連中は高見の見物をしてやがるのか。泳げないし飛べないのは知っているけれども!
そんな不満を腹の奥から喉元まで押し上げるように、胸を反らして頬を膨らませる。そうして眼下の湖を、逆巻く水面を見据える。瞬間、湖より竜が飛び出す。カルマーラモンは溜まった鬱憤ごと吐き出すように、口から毒々しい溶解液を噴射して竜を――メタルシードラモンを迎え撃つ。
けれど超金属の鎧を纏う竜はそんなものお構いなし。溶解液を浴びながらもカルマーラモンを貫かんと額の刃を突き出す。
「ああ~、もう!」
一度だけ叫ぶとカルマーラモンは再度巨大イカに埋まって、回転しながら空を駆り竜の刃をかわす。
ちょうど、そんな時だった。彼女にこんな戦いをさせた張本人が、どこからともなく語りかけてきたのは。
「ご苦労様、カルマーラモン。ふふ、もう十分だよ」
天に浮かぶ“生命の木”の体内。無機質で広々としたドーム状の空間は、床がガラス板を敷き詰めたように透き通り、その体外――眼下の戦場が一望できる。
「準備は整った」
そこに佇むは三つの異形。その一つである鏡の貴人・メルキューレモンは自身の眼前に浮かぶ大鏡に向けてそう言い放つ。
「メルキューレモン!? それって……っ!」
応える声は大鏡、その鏡面に映る半人半獣の怪物・カルマーラモンより。鏡の中に彼女とともに映し出される周囲の景色は眼下に遠い戦場。鏡の中で戦場のカルマーラモンは、迫り来るメタルシードラモンの攻撃を避けながら、その顔に疲労の色をありありと浮かべて荒く息を吐く。
ちょうどこちらも限界か。まあよく持ったほうだな。と、メルキューレモンは胸中で呟いて、唇だけの顔に笑みを浮かべる。
「退き給え、カルマーラモン」
「は……ここまで来てぇ!?」
「ここまで来たからこそだよ」
そう言い合う間にもメタルシードラモンが追撃の手を緩めることなど勿論なく、カルマーラモンは辛うじて回避を続けながらの実に危うい状態でメルキューレモンに叫ぶように問う。
「魔王倒すんでしょ!? もうすぐそこじゃない!」
指と触手でびしりとエルドラディモンを指して、ぎゃあぎゃあと喚く。そんなカルマーラモンにメルキューレモンは肩を竦めてやれやれと首を振る。
「どうしてもと言うなら構わないが、ふふ、巻き添えになっても知らないよ」
「えっ!? ちょ……それは困る!」
「なら早く振り切って帰って来給え」
と、言われてしまえばさすがのカルマーラモンもこれ以上は食い下がれない。ぐぬぬと唸って目前まで迫るメタルシードラモンを睨みつけると、頬をぷうと膨らませ、吐き捨てるように溶解液を吹き出す。
無論それは超金属の装甲を浸蝕するには至らない、が、一瞬の目眩ましにはなる。
カルマーラモンはメタルシードラモンの兜を横合いから撫でるように叩き、その突撃を受け流す。と同時にその反動を以って宙に跳躍、距離を取るとそのまま飛翔し、水上の戦場から離脱する。
「そう、いい子だ。ふふ」
そんな様子を鏡越しに見て、メルキューレモンは唇を笑みの形に歪める。
「では始めるとしようか。ちょうど役者も揃ったところだ」
そう言って鏡の顔に虚空を映す。やがてゆらりと影が揺れ、それは静かに、姿を見せた。
純白の外套を虚空になびかせて、ふわりと降り立つ様はさながら舞う羽の如く。全身を包む白衣に正体は定かでないが、大きさや形だけなら人間とさして変わらない。ただ一点、背に生えた真白き翼を除けば、だが。
「やあ、お帰り。随分と遅かったね、ふふ」
「少々寄り道をしておりました故」
微笑を浮かべるメルキューレモンに、白ずくめの天使は傅くように片膝をついて、その両腕を水平に開く。はためく外套はまるで羽ばたく翼。ばさりと音を立て、かと思えばその周囲が蜃気楼のように歪み、ずるりと、虚空から二つの影が這い出す。
「な……っ!?」
その様子に思わず声を上げたのは鍵の天使・クラヴィスエンジェモンだった。
「ドミニモン……ホウオウモン!?」
白ずくめの天使の両脇に横たわる、青い鎧の天使と金の聖鳥の名を呼び駆け寄る。けれど、鍵の天使の呼び掛けにもまるで反応はない。気を失っているのだろう。その全身には数え切れない程の裂傷と火傷を負い、中でも特に目立つのは一筋の創傷――血とノイズに塗れ、今にも命にさえ届こうかという痛々しい刀傷だった。
深く、鋭く、一目に使い手の技量の高さが見て取れる。反面その切り口は非常に不規則不揃いで、恐らくこれは特殊な形状の武器を用いた故だろう。切り裂くより引き裂くように、単純な切れ味より与える傷の深さを追求し、例え仕留め損なっても容易には再起させない、そんな武器。
「メルキューレモン!」
「衛生兵ならもう呼んだよ」
満身創痍。戦線への復帰は当面無理だろう。それどころか、いまだ命を取り留めていることが奇跡に近い。
クラヴィスエンジェモンは程なくしてやって来た衛生兵に二人を任せると、白ずくめの天使に向き直る。
「一体、何が……?」
ゼブルナイツの拠点への進軍中、こちらの読み通り奴らに接触を図った魔王の片割れを発見した。と、そこまでが一度目の報告。それを受け助勢に向かったミラージュガオガモンが片割れを仕留めたと、二度目の報告ではそう聞いている。ならば一体、誰が?
クラヴィスエンジェモンの問いに、けれど白ずくめの天使は首を振る。
「残念ながら、私めがお二方を発見した時には既に敵の姿もなく」
「謎の敵、か。ふふ」
そう笑う、メルキューレモンの意味深長な視線が黒獅子の騎士を捉えた。
「はてさて一体どこの誰なのか。なあ、レーベモン?」
「どういう意味だ?」
メルキューレモンの言葉に、レーベモンは腕を組んだまま問い返す。クラヴィスエンジェモンや白ずくめの天使もまたレーベモンに視線をやって、どこか空気が張り詰める。けれどメルキューレモンは肩を竦めて小さく笑い、
「どうもこうも、ただ意見を求めただけだが?」
と、首を傾げる。レーベモンは言葉を飲み込むように僅かの沈黙。一拍を置いて溜息を吐く。
「報告では、仲間がもう一人いたそうだが」
レーベモンが言えばメルキューレモンはわざとらしく感嘆の声を上げて、また微笑する。
「おっと、これはうっかりしていた。そうそう、黒い翼の騎士だったかな。ふふ。いやなに、傷口の残留データから“闇”のコードが検出できたものでね」
ドミニモンとホウオウモンを瀕死に追い込んだ刀傷。その切り口に残されたデータの痕跡は、間違いなく闇に類するものだった。であれば是非とも“闇の闘士”殿にもご意見を。なんて、そう続けるメルキューレモンにはクラヴィスエンジェモンも思わず眉をひそめる。
メルキューレモンの口ぶりではまるでレーベモンの関与を疑っているかのようではないか、と。ありえない。彼がここにいたことは、外ならぬ自分たちが証人だというに。一体何を……?
そう、クラヴィスエンジェモンは胸中で訝しむも、けれど当のレーベモンは涼しい顔。
「ああ、そのようだな」
などと返せばメルキューレモンはただただ不敵に笑う。構わずレーベモンは「だが」と続けた。
「生憎と解析やらは門外漢だ。役には立てそうもない」
「おや、それは残念」
そんなやり取りは、あるいはいつもの軽口のようなものだろうか。クラヴィスエンジェモンの胸にあったのは漠然とした違和感と、言い知れぬ不安。
「僭越ながら」
一瞬の静寂を破って、声を上げたのは白ずくめの天使だった。片膝をついたまま頭を垂れる。
「今は見えぬ敵より目前の敵を見据えるべき時かと」
フードの奥に隠れた表情を窺い知ることはできないけれど、その語気は強く、態度とは裏腹に有無を言わさぬ圧力を伴う。メルキューレモンは肩を竦めて白ずくめの天使を見据える。
「これは失敬。ふふ。ああ確かに……“サタナエル”殿の言う通りだ」
おどけるようにぺこりと頭を下げるメルキューレモン。白ずくめの天使“サタナエル”は、陰りの中に静かな笑みを湛えた。
10-3 蒼天の鉄槌
天に浮かぶ眼が瞬く。淡く淡く、黄昏の星に似たほのかな輝き。眼より放射状に広がる光は、空の天蓋に電子基盤を思わせる幾何学模様を描きながら地上へと降りてゆく。
空が凍てついたように風が凪ぐ。地平線に降りた幾何学模様の光の筋が瞬く間に大地を撫でて、かと思えば刹那に光は消え失せる。
「今の……何?」
「始まったようだ」
私が問えば答えたのは闇色の怪鳥・ベルグモン。
「始まった?」
セフィロトモンを中心に一瞬、空や地面に不思議な模様が浮かび上がって――ただそれだけ。見たところ、どこもかしこもこれといった変化は見られないけれど。
そう、私が問い返したその直後。ベルグモンの返答を待たずして激しい震動が私たちを襲う。空を飛ぶベルグモンの背の上にさえ伝わるそれは地震などではなく、強風の類でもない。小世界そのものが、空間そのものが揺れていたのだ。
「セフィロトモンによる小世界への浸蝕だ」
遅れてベルグモンが言う。震動の中で身を屈めながら私は空を見る。セフィロトモンの無機質な体表が陽炎のように揺らぎながら、ゆっくりと下降を始めていた。「おいおい」と溜息混じりにインプモンが零す。
「まさか捕縛って、小世界ごと取り込むつもりか……?」
「ああ、そのまさかだ」
インプモンの問いに、答えるベルグモンは至って平静だった。
この小世界そのものを、空も大地も湖ももろともに、仮にも一個の生き物がその体内に呑み込もうというのか。デジモンという存在に触れてまだ数日の私にも解る、その規格外の化け物っぷり。知らず、嫌な汗が頬を伝う。
「しかしこの進行速度……」
そんな折、私の腕の中で抱えていた魔術書から賢者・ワイズモンがふむと声を上げる。眉をひそめながらインプモンも相槌を打ち、賢者の言葉を継ぐようにベルグモンに問う。
「間に合うのか?」
と、先程より幾分近付いたセフィロトモンを見上げながらベルグモンの背を小突く。そんなインプモンにベルグモンは至極冷静に、
「この小世界からの脱出、というなら諦めろ」
そんな返答には思わず間抜けな声が漏れる。構わずベルグモンは続けた。
「脱出するのは“セフィロトモンの中から”だ。心配するな、手は打ってある」
そう言い放つ声に迷いはまるで無い。先程言っていたな。これが無茶とやらか。つまり今より目指すのは、敵の腹の中……!
「無茶言いやがるな」
ベルグモンの告げた作戦内容に、インプモンは微笑混じりの溜息を吐いて、にまりと口角を上げてみせる。確かにこれ以上ないほどに無茶苦茶、無謀とさえ言える。だというに、なにゆえこの魔王殿はちょっと楽しそうなのだろうか。
「怖じ気づいたか?」
なんて皮肉げに言うベルグモンの背を小突き、馬鹿を言うなとばかりに鼻で笑う。そんなインプモンに私は小さく溜息を零す。まったく、どいつもこいつも。
「気楽なものね」
「気負ってもしょうがねえだろ」
それに、とインプモンはベルグモンの向かう先を見遣る。つられて目をやれば私の目にさえ徐々にはっきりと見えてくる戦場。インプモンの言わんとしていることはすぐに解った。どのみちもう、悩む時間もない。
「ミラージュガオガモン……!」
私がこくりと喉を鳴らすとほぼ同時、複雑な面持ちで戦場の友をその目に捉え、声を上げたのはレイヴモンだった。視線を追えば戦場の空。何人も手出し無用と言わんばかりの、二人きりの決闘場。矛を交えるのは獣頭の騎士・ミラージュガオガモンと、闇の竜・ダークドラモン。二人の戦友を二つの眼に映し、レイヴモンはただ静かに拳を握る。
「ほう、あれが今のゼブルナイツか。見ると聞くでは大違いだ」
そんな時、賢者がぽつりと言う。それはどこか緊張感に欠ける口調、というより、好奇心が勝るといったところだろうか。私はその物言いに一つ、小さな疑問を感じて眉をひそめる。
「今の、って?」
問えば賢者は嗚呼と一拍を置いて答えた。
「ゼブルナイツの前身は今は亡き魔王の軍勢、その残党なのだよ」
「ま、魔王?」
「それも二柱の、ね。バルバモン配下の守護騎士団を中心に、スカルサタモンらデーモンの配下たちまで……よくもあれだけ揃えたものだ」
感心するように賢者は唸り頷く。
元魔王の配下、それが“ならずもの”の正体か。
「じゃあ、ダークドラモンは……」
「強欲の魔王・バルバモン配下の守護騎士団を率いた三将軍の一人だ。そして恐らくそれが」
「この戦いに至る理由」
賢者の言葉をそう補足したのはレイヴモンだった。
「やはり復讐か」
「復讐……あ」
察して、はっとする。つまりは主の敵討ち、と。
「そういうことだ。まあ、個人的には幾つか疑問もあるが……今は置いておこう。もう、お喋りの時間もなさそうだ」
散る火花、駆け巡る閃光に、舞う鮮血。甲高い音が耳を衝く。戦場はもう、目と鼻の先。
「行くぞ」
低く小さく、背の上で姿を隠して潜む私たちの存在を気取られぬようにか、囁くようにベルグモンが言う。その一言に心臓が高鳴り、冷たい汗が頬を撫でる。
ベルグモンは一際大きく羽ばたいて、その翼で鋭く風を切る。既に互いに目視可能な距離。目前の敵と頭上のセフィロトモンに気を取られていた両軍の兵たちも、ベルグモンを意識と視界に捉える。
咆哮。漆黒の怪鳥の闇より轟くような雄叫びが、戦場の空を揺らす。と同時、ベルグモンの額の邪眼より放たれたのは軌跡が瞳のような紋様を描く血の色の閃光だった。
赤黒い光の筋が、突然の闖入者に戸惑うアポカリプス・チャイルドの兵を次々に撃ち抜く。披弾した兵たちは僅かな呻きを上げると、その身に小さな茜色の火を点し、糸が切れた人形のように静かに湖へと落ちてゆく。
その様に、戸惑いが一瞬に敵意へ変わる。
聖獣部隊を率いる深緑の巨鳥・パロットモンが吠え、それを合図に青の雷鳥・サンダーバーモンと翼の白蛇・クアトルモンの混成部隊がベルグモンを迎撃すべく旋回する。雷鳥がその帯電した羽を矢のように撃ち出し、白蛇がその身より螺旋状の光の帯を放つ。
兵数が百を優に越える混成部隊。第一射だけでまさに嵐のような弾幕。けれど、
「邪魔だ」
吐き捨てるように呟いて、ベルグモンはその翼で大きく空を打ち、耳をつんざつ雄叫びを上げる。咆哮に揺らぐ大気が羽の矢を撃ち落とし、ふるう翼が巻き付く光の帯を引き千切る。それは火の粉を払うように、ただただ無造作に。まさにものともせず、前衛の部隊を第二射に備えていた後衛もろとも蹴散らして、ベルグモンは悠然と飛翔する。
格が違い過ぎる……!
これが十闘士の力か。いや、思えば今まさに小世界を飲み込まんとする頭上の怪物と同格なのだ。凡百のデジモンであろうはずがない。
雷鳥と白蛇による混成部隊の戦線を突破し、ベルグモンはエルドラディモンへと迫る。だが、即座にその行く手を遮り立ち塞がったのは部隊長たるパロットモンだった。
一瞬の睨み合い。パロットモンの額が青白く発光し、狙いを定めるように前傾する。けれど、その間際。ベルグモンの力強い羽ばたきが大気を混ぜ返し、乱気流を巻き起こす。
そうして――激突と決着もまた、一瞬に終わる。
生じたのは、瞬きほどの隙。気流を背に受け加速したベルグモンの爪が、姿勢を崩したパロットモンの側頭部へと突き立てられる。頭をわしづかみにするような形で、みしりと、骨の軋む音が漏れた。ベルグモンはそのままパロットモンを踏み台に跳躍するように後肢を真下にふるう。
苦悶の表情を浮かべ、パロットモンは体勢を立て直すことさえままならず湖へと落下する。小さくはない水音を上げ、高く水柱が立つ。ベルグモンはそれを見届けることもせず、再び大きく羽ばたき飛翔する。
そして、道は開かれる。
サンダーバーモン・クアトルモンの混成部隊による戦線を突破し、更に部隊長であるパロットモンを下したことで、一時的とはいえ行く手を阻む障害が消える。別部隊を割くにも思考と準備には僅かの時間を要する。機は、今この時だ。
ベルグモンはそのまま両軍の空戦部隊が交戦するその真上を翔け抜ける。エルドラディモンの頭上へと到達し、そうして――何をするでもなく急旋回し、即座にその場を離脱する。その行動の意図を理解できたものはいなかったろう。ベルグモンの急旋回と同時、傾いた背からエルドラディモン目掛け降下した、私たちを除いては。
「うまくいったか」
「みたいね」
エルドラディモンの背の上に建つ、塔のような建造物のテラスに降り立ち、一先ず安堵の溜息を吐く。いや、本番はここから。まだ気を抜くことはできない、か。
私は空を見上げてこくりと喉を鳴らす。空はその天頂より徐々にセフィロトモンの体色と同じ色に染まり、この小世界が飲み込まれてしまうのももはや時間の問題だった。
「もう引き返せそうもないね」
「端から引き返す気もねえよ」
「とにかく急ぎましょう。封印されてた部屋、確かずっと下のほうだったけど……レイヴモン、道分かる?」
見たところ無人の塔の中、暗がりの奥の螺旋階段を覗き込んでそう問い掛ける。けれど、
「レイヴモン?」
返って来ない返事に振り返る。テラスに佇むレイヴモンは空を仰いだまま、はっと息を飲む。
一瞬、戦場が静まり返ったような錯覚。高い高い空に見えたのは真紅のマント。その中心より突き出た円錐状の何か。ずるりと、引き抜かれるそれは槍の穂先だった。
「ミラージュ……ガオガモン」
ダークドラモンの槍に貫かれ、力無く落ち行く友の名を譫言のように呼ぶ。応える声は、あるはずもなかった。
10-4 戦場の再会
高い空より咆哮が降る。果たしてそれは勝鬨か、怒号か、あるいは悲壮か。知るはただ、ダークドラモン当人だけ。
ぎり、と一度だけ歯列を鳴らしてレイヴモンは振り返る。その目に強く悲しい光を湛えて。
「申し訳ございません。急ぎましょう」
どこまでも冷静に、気丈に、そう言ってみせたレイヴモンに私は、言葉を返すことができなかった。そんな私に代わって冷たく頷いたのはインプモンだった。
「だな。あいつが戻ってくると面倒だ」
そう言ってインプモンは視線を塔の中へ向ける。私は、甘く唇を噛んで小さく息を飲む。足を取られている時間など、もう無いのだ。一拍だけを置いて、前を向く。
「ええ、行きましょう」
そうして私たちは、魔王が眠る封印の部屋を目指して前進する。後ろを振り返ることは、もうしなかった。
「さて、問題はここからだね」
無人の塔を降り、回廊を駆け、古城をひた走る。ただでさえ一度来たきりの場所。地上に出たことで印象もがらりと変わり、はっきり言ってどこがどこだかまるで分からないのが正直なところ。
「以前の場所にまだいるとも限らないし……レイヴモン、君も完全には内部を把握できていないのだろう?」
「え……そうなの?」
賢者の言葉にレイヴモンはこくりと頷く。
「某とミラージュガオガモンは元より組織には属さぬ身。アポカリプス・チャイルドの目を逃れるため、繋がりを悟られぬようゼブルナイツからは離れて動いておりました故」
つまりは、役割分担か。元魔王の部下として顔の売れているダークドラモンが矢面に立ち、兵力の増強と表立った戦いを仕掛け、その裏で顔の売れていない二人が諜報や潜入を行っていた、と。
「一部の幹部を除いては我々の存在すら伏せられております」
レイヴモンはそう続け、申し訳なさそうに首を振る。要するに、この中には味方になりうる者など一人もいない訳だ。
「なら……」
「手当たり次第に探すっきゃねえだろ」
「うん。そうなるね」
嗚呼、結局それか。先程空から見た限り相当の規模だ。それも中は敵だらけで、外は戦いの真っ最中。こんな状況で敵から身を隠しつつ当てどなく探し回れと?
「……悪夢ね」
「ははは。今更言ってもしょうがねえよ」
なんて笑うインプモンに思わず拳を握る。ちょうど、そんな時だった。私を呼ぶその声が、虚空にか細く響いたのは。
雑音が聞こえた。か細く弱く、今にも消え入りそうな、虫の息にも似たノイズだった。
頭の芯に鋭い痛みが走る。一瞬、けれど確かなその存在感。「ここにいる」と、訴えるように。
「デジメロディか」
ぽつりと言ったインプモンに目をやれば、その顔はまるで苦虫を噛み潰したかのよう。片手で頭を押さえ、小さく舌を打つ。
「インプモンも、聞こえたの?」
「みたいだな。“俺”が、俺とヒナタを呼んでんのか……?」
誰にともなくインプモンが問えば、賢者がふむと唸って腕を組む。
「ありえない話ではないね。エイリアスというなら“君たち”は、今も昔もまったくの同一の存在なのだからね」
ベルゼブモンがインプモンを、半身が半身を呼ぶ声、か。ほんの一瞬だけこの耳に届いたノイズ。脳裏に残る音の残滓はどこか悲しくこだまして、助けを求めているようでもあった。
「場所は、判るかい?」
「多分だけど」
賢者の問いに私はゆっくりと古城の奥を指差す。同時にインプモンもまた同じ方向へ目をやった。どうやら、間違いはないようだった。
「行ってみるとしようか。他に当てもないことだしね」
「そうね。迷ってる暇は……」
歩き出して、けれど目前に見えたそれに思わず足を止める。目と鼻の先に舞ったのは白いもや。それは、外ならぬ私自身の吐息だった。
「え?」
吐く息が白い。産毛が逆立つ。空気が冷たい。水の森が、寒い……?
困惑する私に賢者が言う。
「セフィロトモンと小世界の同化だ」
「同化……これが?」
「セフィロトモンの体内は十属性の十世界。どうやら水の森は、氷の属性の世界に取り込まれようとしているようだ」
「こ、氷の世界?」
言う間にも城の石壁が結露する。気温がみるみる下がっていく。
「湖が凍り始めております。海軍を封じる算段にございましょう」
天窓から外を見渡し、レイヴモンが言った。湖が完全に凍り付けばエルドラディモンへの侵入を阻む障壁が一つ消える。そうなれば、
「アポカリプス・チャイルドがここへ侵攻するのも時間の問題だね」
「じゃあ……!」
「とにかく急ぐぞ!」
言い捨てるように、こちらの答えも待たずインプモンは走り出す。私は慌ててその後を追う。走りながらちらりと外を一瞥すれば、空の色はとうに水の森のそれではなかった。
タイムリミットは、すぐ傍にまで迫っていた。
ノイズに導かれるまま古城を駆ける。やがて広々としたホールを抜け、奥へ奥へ。縦も横もやけに広い石造りの廊下を進む。ぽつりぽつりと点る松明が行く道を照らす。記憶と重なる、その光景。
「ここ、前に来た所……」
以前ダークドラモンの案内でやって来た場所。あの封印の部屋へ続く道。振り返ればレイヴモンも頷いてみせた。
となればやはりこの先が、私たちの目指す場所。
記憶をなぞるように薄暗い廊下を進み、程なくして立ち止まる。唯一記憶と違っていたのは、眼前の大扉がどういう訳か破壊されていたこと。もはや扉の役割を果たさぬ鉄塊の隙間から、冷たい空気が肌を撫でる。外から流れ込む氷の世界の冷気ではない。
ただ一度、ノイズが一際大きく頭を衝いた。まるで「待ち侘びた」とでも言っているかのように。
瓦礫を踏み越え扉の奥へと進む。燭台に照らされた薄暗い地下室の中、いつか見た時と変わらぬまま、それはそこにあった。
「無様だな」
ようやく巡り会えた半身に、インプモンが零したのはそんな自嘲。氷の中に眠る魔王・ベルゼブモンはただ静かに黙して語らず、微動だにすることもなかった。
ここへ辿り着くだけでどうにかなるなどと、そこまで楽観していた訳ではないけれど、しかしこうも無反応とは……。
「ワイズモン、封印って解けそう?」
「もう解析は始めているよ。だが……さすがは四大竜といったところか」
言いながら賢者はキーボードを叩くように宙に指を走らせる。その周囲には不思議な文字や数列のようなものが浮かんでは消え、賢者はそれらすべてをせわしなく目で追い、やがてふむと唸る。
「一筋縄ではいきそうもないね」
「頼りになんねえな」
首を振る賢者にインプモンはそう吐き捨てて、わざとらしく溜息を吐く。気持ちは解らなくもないけれど。氷柱を見上げ、インプモンに次いで溜息を一つ。そんな時。ふとある顔が過ぎり、あ、と声を上げる。
「そうだ……リリスモンは?」
また以前のように交信魔術とやらで助言の一つも貰えないものかと、私が辺りを見渡せば、けれど即座に賢者が言う。
「いや、恐らくもう無理だ」
なんて声は、どこか遠くから聞こえるよう。賢者に目をやって、眉をひそめる。声だけではない。その姿は霞の中へ溶けゆくように薄らいで、賢者は、無念だとばかりに溜息を吐く。
「残念ながら、時間切れだ」
魔術書に投影される賢者の姿と声は、まるで擦り切れたフィルムのように掠れて歪む。
「ワ、ワイズモン!?」
「浸蝕の影響だ。セフィロトモンの内部は外部からは隔離された閉鎖空間なのだろう。魔術による交信が遮断されつつある」
雑音混じりの声でそう言って、やれやれと肩を竦める。交信魔術をケータイとするならセフィロトモンの中は圏外という訳か。
賢者の言葉にインプモンは舌打ちを一つ。溜息を吐く。
「この肝心な時にリタイアか」
「僕も残念だよ。とりあえず現時点で分かっていることだけ伝えておこうか」
「え……何か分かったの?」
私が問えば賢者は「二つ程」と指を二本立ててみせる。続けるその口調は、心なしいつもより少し早口に思えた。
「第一にこの氷だが、僅かずつではあるが解けはじめているようだ」
「解けて……どういうことだ?」
「どうもこうも、この状態を維持するにもエネルギーは必要だ。外部からの供給がなければいつか解けるさ」
氷は放って置けば解ける。当たり前と言えば当たり前だが。問題はそのいつかとやらだ。見たところ、今日明日という訳ではなさそうだけれど。
「今すぐ役に立つ情報って訳でもなさそうだな」
というインプモンの言い草も尤もだった。賢者は僅か苦笑する。
「それからもう一つ。中の肉体だが、デジコアの反応が極めて弱い」
「弱い?」
「恐らく瀕死。というより、封印のお陰でかろうじて命を取り留めている可能性すらある」
次第に聞き取り辛くなる声でそう言って、賢者は首を振る。瀕死……かろうじて? 突然告げられたそんな言葉に、戸惑う私になどまるで構わず賢者は続ける。
「さて、交信魔術の出力を最大まで上げているが、そろそろ限界だ。最後に……僕が提案できるのは二つ。この場での解放を諦め氷柱を抱えて脱出するか、それすら諦め手ぶらで脱出するか、だ」
それだけまくし立て、賢者は肩を竦める。そうして、
「では、健闘を祈るよ」
言葉尻とともにその姿は溶けるように消える。後にはただ、分厚い魔術書が残るだけ。
ややを置いて、インプモンは深く溜息を吐いた。
「言うだけ言って消えやがったな」
「ど、どうするの?」
取り残されて途方に暮れる。どうしたものかと眼前の氷柱を眉をひそめてただただ見上げる。
氷柱の影から嘲笑うような声が漏れたのは、そんな折だった。
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