第一話 『花と緑の』



 世の中は退屈だ。
 有り触れた出来事ばかりを繰り返す平々凡々とした日常。彩りのない世界はまるでモノクローム。いくら待ち望んで、どれだけ待ち焦がれても、このアンニュイをぶち壊してくれる劇的なイベントなんて起こりはしない。人生は、余りにも普通だった。

 幼い頃から物語が好きだった。
 どんなに素敵なことだろう。ウサギを追い掛けた先で不思議の国へと迷い込めたなら。古本屋で見付けた一冊の本から物語の世界への扉が開いたなら。魔法世界からフクロウの手紙が出生の秘密を告げに来てくれたなら、それはどんなに素晴らしいことだろう。

 そんな、夢物語からは程遠い十余年を生きて、夢見る乙女の心のお花畑は今にも萎びて枯れ果ててしまいそう。誰でもいい。何でもいい。多少血生臭くても構いやしないから、誰かあたしを今すぐこの日常から連れ出してっ。なんて、中学二年のある夏の日、あたしはそんなことばかりを考えて溜息を吐いていた。中二病は、否定しない。

 でも、そんなあたしも頭のどこかでは理解している。誰もが知っているのだ。大多数の患者はきっと軽症。異世界なんてどこにもなければ、自分に出生の秘密なんてないし、ある日突然宿命の勇者に選ばれることもないと。有り得ないことなのだと、理解しているのだ。自分が平均的なただの思春期だと知っているのだ。
 だから――そう、あるはずがないのだ。それを目の当たりにした時のリアクションなんて用意しているはずがないし、受け入れ態勢なんて整っているはずがない。心の準備なんて、できているはずもないのだ。

 例えばの話。
 突然目の前が真っ白になって気付けば見たこともない場所にいた、などという場合、平均的な14歳の少女はどのような反応をするものであろうか。
 例えばの話。
 その見たことも無いような場所で、緑色の巨大なナメクジが自分を見下ろしていた場合、平均的な女子中学生はどのような反応をするものであろうか。
 例えばの話。
 それがもし例えばの話でなかったとしたら、あたしこと雨宮花の取るべき反応はどのようなものが正解であろうか。

「よう、大丈夫かい?」

 蝋人形のように固まりながらあれこれ考えていると、巨大ナメクジの2つの眼球がぎょろりと動いて、赤い舌の垂れ下がった口から零れたのはなんとも流暢な日本語。
 あはは喋ってやんの。ちょーウケる。そんな心の声に抑揚は無く、まるで背筋から伝染した冷たさに凍りついたよう。焦点の合わない目はざぶんざぶんとドルフィンキックで泳ぎ続けて、高く飛び散る飛沫が涙腺のプールサイドから零れて落ちる。体中から体温が消えていく錯覚。これはあれかしら。世に言うあれ。血の気が引くってあれかしら。
 となるとそうね。それじゃあとりあえず、

「ぎ……」
「ぎ?」
「ぎひゃああぁーーーーーーひぃいああーーーー!!!」
「お、おおお!? な、何だ? え? どうした!?」
「いぃーーーやぁーーーー!!!」
「ちょ、ど、どうした!? 落ち着け! 何があった?」

 何がも何もあるかあっ! そこのクリーチャアぁ! あんただあんた! あとどこだここ!? あたしの部屋は!? 家は!? むしろ国は!? 何このジャングル!? うぇあ! いず! ひーあーー!?

「ぎゃああーーーーーっ!!」
「おおお落ち着けってばー!」
「落ち着けるかあぁーー!!」

 凡そ考え得る非常識というものの範疇もホップステップテイクオフとばかりに飛び越える目の前の不条理に、か弱い乙女のガラスハートはエマージェンシーを最大音量でコールする。口から出る悲鳴は自分でも未だかつて聞いたことのないような声。
 冷静に見るなら恐らく宥めようとしているのだろう。優しく声を掛けながらゆっくりと近づいてくるナメクジはしかし、恐怖と混乱により一層の拍車を掛けるだけ。尻餅をついたまま踵で地面を蹴ってずりずりと逃げる。ナメクジはわたわたしつつもそれを追う。

「ちょ、ちょっと待て。な? 大丈夫だからほら、なあ?」
「いぃーーやぁーー!! 来るなぁーー!!」
「いや、だからな? オイラは別にゅぷぺっ!?」

 ぎゃーぎゃー叫びながら逃げていると、突然変な感触と変な声がする。ふと見れば目前まで迫っていたナメクジが随分遠くで転がっていた。どうやらバタバタやってた足で思い切り蹴飛ばしてしまったらしいことに気付いたのは、近くの木陰に逃げ込んだ後、ゴミ屑のように転がっているナメクジの顔面にスニーカーの靴跡を見つけて更にしばらく経ってからのことであった。
 木陰に隠れてはあはあと、肩で息を吐く。静まり返ったジャングルに自分の吐息以外の音は聞こえない。
 風が頬を撫で、静けさに少しだけ冷静さを取り戻す。
 ずれた眼鏡をくいっと戻して周囲を見渡す。やはり紛う方なきジャングルである。木陰からそろりと顔を覗かせ転がるナメクジを見る。未だぴくりとも動かない。

「……ね、ねえ、ちょっと?」

 返事が無い。ただの屍のようだ。……あれ? ホントに?

「し、死んだ?」
「……いや、死んではないけれどもな」
「うわ、喋った」

 思わずびくりと体を震わせて、そこらにあった木の枝を掴む。一度KOしてやったお陰か先程よりは幾分か冷静さを保てていた。う〜と一度唸って、状況はさっぱり分からないがこうなったら頼れるのは己のみだと、来るなら来やがれとばかりに臨戦体勢に入る。
 ナメクジはなんだか疲れたような、どこか怯えたようにも見える顔で恐る恐る口を開いた。

「あの……すんません。ちょっと1回話聞いてもらっていいすか?」

 やけに低姿勢なナメクジにも気を緩めることはしない。何故だかいやに体が熱かった。アドレナリンが迸る。追い詰められ過ぎて変なテンションになったらしい。なんて言うかもう、孤独があたしを強くする。みたいな。
 ギラリと眼光鋭く枝を構える。ナメクジは後退りながら焦った風に、

「ちょ、いや、ストップ。ストップ。オーケイ、先ずは落ち着こう。とりあえず落ち着こう。な?」

 なんて言葉には勿論耳を貸さない。こうなればやられる前に……。じりじりと距離を詰める。

「オッケ、オッケ。分かった。分かったから。ごめん。とりあえずごめん。てゆーかごめんなさい」

 じりじり。じりじり。

「ちょ、ちょまっ! 話せば分かる! 分かるから! な? ほら、お互い知的生命体として先ずは平和的に――」
「死ねえーーーっ!!」
「ぎゃあーーーっ!?」

 知的生命体? 寝言は寝て言え! 否! あの世で言え!
 気合一閃。渾身の力で振り下ろされた木の枝はナメクジの眉間、らしき辺りに深々とめり込み、ナメクジから何だかよく分からない悲鳴が漏れる。やった! だがそう思ったその時、握る木の枝がめきめきと嫌な音を立てる。右手に込める力が途端に行き場を失い空を切り、気付けば目前に飛来する木片。衝撃に耐え切れず中程で折れた木の枝が、振り下ろすその力と逆方向へ、即ちあたしの顔面目掛けて飛んで来たのである。

「ぬぎゃっ!?」

 そして自分の口から漏れた、変な声。覚えているのは、そこまでであった。




「おお、お目覚めですかね娘さん」
「あ……はい。え?」

 目が覚めるとそこはふかふかと気持ちいい真っ白なベッドの上だった。手探りで見付けた眼鏡をすちゃっと掛けて、辺りを見渡せばどうやら木造のロッジのような場所。何やらいい匂いと優しそうな声に思わず普通に受け答えしてしまったが、振り返り見たその姿に思わずぎょっとする。

「丁度今リリリン風味噌スープができたところでしてな。どうですかね?」
「……イタダキマス」

 あたしの知る常識の範囲内でもっとも近しいのはそう、なまはげだろうか。多少伝言ゲームに失敗しながら南国へと渡ったジャパニーズなまはげ。ダボダボとした民族衣装のような服を纏い、裾から覗く指は不自然なほどの暗褐色。鬼瓦に似た仮面を被っているように見える顔はしかし、よくよく見ればどうやら自前。人ではありえない青い肌に、人ではありえない鋭い牙の生えた口と、人ではありえない炎のような赤い髪。先程のナメクジが可愛く思えるほどの、あからさまな化け物であった。
 コチーンと凍る表情。混乱した頭は逆に恐怖を忘れたよう。半ば呆けながら、差し出された漆塗りの椀を思わず受け取って、リリリン風味噌スープを一口。あらおいし。じゃなくて。リリリン風味噌スープって何それ。……でもなくて。

「あの」
「どうじゃね?」
「あ、美味しいです」
「うむ、それはよかった。おお、そうそう。おでこはどうですかな?」
「え? ええと……あ、大丈夫です」

 リリリン風味噌スープの椀を床に置き、おでこに手をやれば絆創膏のようなもの。少しだけたんこぶができていたが、痛みは無かった。

「軽い打ち身ですな。気を失ったのは……ただびっくりし過ぎただけでしょう。すみませんな、驚かせてしまいまして」
「はあ……あ、いえ」
「昔からやんちゃでしてな。――そら、そんなところにおらんでこっちへ来てちゃんと謝らんか」

 なまはげが手招きするその指の先を目で追うと、ベッドから離れた柱の影に例のアレ。嗚呼。またお前か。
 緑のナメクジはそろりと顔を半分だけ覗かせて、目玉だけの目をぐにんぐにんと歪ませ抗議した。

「いやいやいや。つーか長様よお。今回ばっかはオイラ普通に被害者だぜ? 見てくれよこれ!」

 よくよく見ればその目玉と目玉の間にはばってん型の絆創膏。どうやらジャングルの決闘は相討ちに終わったらしい。

「お互い様じゃろうに」
「ええぇ〜……いや、だってそれ一人で勝手に」
「おお、そう言えば自己紹介もまだでしたのう。わしはバロモン。この村の長をしております」
「ええー……無視?」
「あ、どうも。あたし雨宮花です」

 柱の影でなにやらぶつぶつ言っている緑のを尻目に、生なまはげことバロモンさんの差し出す手を握り返す。どうやらどうにも敵意はないらしい。ナメクジよりは余程人に近い造形ということもあってか、あたしの警戒心も少しずつ薄らいでいく。

「それからあやつは……これ、いい加減こっちへ来て自分で挨拶せんか」

 う、なんて。一瞬ためらいおずおずと柱の影から出る緑の。そろりそろりとこちらの様子を窺いながら近づいてくる。あたしは猛獣か何かかこの珍獣め。

「オ、オイラはヌメモンだ。よ、よろしくな。えーと、アマミナマナ?」
「あまみや、はな。言いにくいなら花でいいけど」
「鼻?」
「アクセント違うからそれ。花、花、綺麗で可憐なお花のほうよ」
「キレイデカレン……」
「何か?」
「い、いや。ハナ、ハナだな。でいいよな?」
「うん。まあよし」

 頷いて味噌スープをズズと一口。大分落ち着いてきた。というか慣れてきた。

「それで……ええと、バロモンさん? ところで結局ここはどこなんでしょ?」
「うむ。ここはデジタルワールドの南四半球、ミクロコスモスレイヤーの深度約22.6層に位置する連星型小世界、その東部エリア一帯に広がる熱帯多雨林・リリリンジャングルです」
「……なるほど」

 少なくとも訳の分からない場所であることは分かったけれど。緑のヌメに味噌スープを注いでやりながらバロモンさんはところでと続ける。

「ハナさんは、デジヴァイスを持っておられますかな?」
「そうだよそれそれ。オイラさっきそれ聞こうとしただけなんだぜ」
「デジ……え?」
「ここへ来る前に持っておらんかったものを何か……持っておりませんかな?」

 何か、って言われても。首を傾げながらポッケを探ってまた首を傾げる。持ってなかったものを持ってないか? なにそれ?
 あたしの反応にうんうんと頷くバロモンさん。そしてなんでか落ち込む緑のヌメ。

「そのデジ……忘れた。それって何? 持ってないと駄目なもの?」
「ああ、いやいやいや。持ってないなら、まあ持ってないほうがいいものでしてな」

 余計わかんないけど。眉毛をぐるぐるしかめて如何にも訝しげな顔をしてみるも結局益々訳が分からない。

「じゃあ……じゃあハナは選ばれし子供じゃないのか?」
「選ばれ……ねえ、ほんとちょっと意味わかんないんだけど」




 選ばれし子供! それは選ばれた子供たちである!
 選ばれし子供!! それはこの世界を救う為に召喚された救世主!
 選ばれし子供!!! それはデジモンとともに戦い、デジモンたちに進化をもたらす者!

 熱く語る緑のヌメにあたしは頬杖を突きながらうんうんと適当な相槌を打つ。バロモンさんから味噌スープのおかわりをいただき、ふうと一息。鼻息の荒いヌメにまあ落ち着きなはれとばかりに手をひらひらさせる。

「で、あたしがそのきゅーせーしゅだと?」
「……思ったんだけど」
「違ったみたいね」

 ばっさりと言ってやればヌメは分かり易く肩を落とす。あからさまにがっかりすんな。勝手に勘違いしといて。どうでもいいけど肩なのかそこ。というかこんなか弱い女の子をいきなり拉致って血生臭い戦場に送り出すとか、何だそれ鬼か。鬼畜か。鬼畜なのか。この鬼畜ヌメ!

「だったらハナは……」
「恐らく偶発的なゲートに迷い込んでしもうたのじゃろう。災難でしたのうハナさん」
「えぇ〜……ただの迷子?」

 冷ややかな視線を送るあたしにヌメはまたがっくりとうなだれる。何か腹立つな。確かに迷子なのだけれども。迷子……迷子か。ああ、そういえば、

「あのー」
「うん? なにかね」
「ええと、ところであたしってその、どうやって元いたとこに帰れば?」

 すっかり聞き忘れていたと、問えばバロモンさんはふむと唸ってぽりぽりと頬を掻く。とても言い辛いのですがとばかり。その反応だけで大体想像はついたのだけれども、とりあえずは黙って返答を待つことにした。というか自分からその現実には向き合いたくなかった。ややを置いてバロモンさんはよっこらしょいと腰を上げ、おもむろに外へ向かって歩き出す。一度だけ振り返って手招きをしたその後ろ姿をあたしは黙って追う。

 のれんのような厚い布が掛かっただけの、扉とも言えない扉から屋外へ出る。辺りを見渡しながらバロモンさんの元へ小走りで駆け寄る。どうやらここは周囲をジャングルに囲まれた、というよりはジャングルの奥地を切り開いた集落のようだ。木造のロッジに似た建物がそこかしこに並ぶ。

「見えますかな」

 そう、空を見上げるバロモンさんの視線を追う。澄み渡った青空に高く遠く、何かが浮かんで見えた。目を細めて凝らす。雲の切れ間に小さく見えるそれはまるで鉛色の月。金属的な鈍い光沢を持ち、表面には電子基盤のような幾何学模様。何かの機械か。例えるなら丸いUFOと言ったところだろうか。サーチライトにも似た光の筋が所々から発せられていた。

「あれは?」
「“リアルワールド球”と言いましての。こちらの世界……“デジタルワールド”から見たハナさんたちの世界、とも、その入口とも言われております」
「それは、つまり……」

 自分でも分かるほどにはっきりと引き攣った顔で、ゆっくりと視線をバロモンさんへ戻す。再びぽりぽりと頬を掻くばかりのバロモンさんに代わり、答えたのはいつの間にかやって来ていたヌメだった。

「帰るならあそこまで上んないと駄目ってことだな」

 と、はっきりきっぱり言い切るヌメの顔はやけに爽やかだった。何でちょっと嬉しそうだこの野郎。根に持ってるのかこの根暗ヌメめ。

「ええと……それで、それはどうやって?」

 一応聞いてみる。ロケットなどはお持ちじゃないかしら。なんて言ってるわけではないけれど。一応……そう、一応念のためである。
 淡い期待を込めて問うそんなあたしに、しかしてヌメとバロモンさんは顔を見合わせしばし。声を揃えて言うのだった。

「さあ?」

 ヌメが肩を竦めてバロモンさんが首を振る。うん、まあ知ってたよあたし。いいの。一応だから。

「さて、と」

 ふう、と息を吐く。伸びをして、うん、と頷く。何故かヌメがびくっと震えてバロモンさんが目を逸らす。そうして、あたしは笑顔でこう言うのだ。

「味噌スープって、まだあります?」




 ずずずずずずずずずぅ〜っと。お椀一杯の味噌スープを一口に飲み干す。けぷっとおくびを一つ。あらご免あそばせ。ふう、と穏やかな笑顔で椀を置く。ヤケ食いとかそいういうあれでは決してない。そう、あたしは至って極めて間違いなく冷静だ。
 なんてことはない。考え方の問題だ。帰れない? ははは何を仰るお嬢さん。帰り道はそこにある。ちょおっと遠いかしらってそれだけよ。
 何より見なさいこの状況。目ん玉ごりゅんとかっぽじって、さあ!

 あたし! イン! ワンダラぁーーンドぅ! なう!

 広がる密林。蠢く謎の生物。迷い込んだ可憐なる美少女。うん。ごめん、美は言い過ぎた。
 しかしこれぞ正に待ち望んで待ち焦がれたファンタジー。夢にまで見た異世界に、あたしは遂にやって来たのだ。そう、そうだとも!

「やって来たのよ!!」
「ぶぅえっ!? え、何!?」

 叫ぶあたしにびくんと震えるヌメとバロモンさん。ヌメがぶばふっと味噌スープを噴いてバロモンさんがわったわったと思わず碗を宙に放り出す。あ、ごめんね。つい声に出ちゃった。てへぺろ。

「そう、そうなのよ」
「え? いや、だから何が……」
「決めた!」
「へ?」

 すっくと立ち上がる。窓越しに灰銀の星が浮かぶ空を見上げ、ぐぐっと拳を握り締める。

「あたし、旅に出る!」
「え……えええぇ!?」
「救世主やります!!」
「きゅ、救世主ぅ!?」

 それ以上飛び出しようのない目がもっと飛び出さんばかりに驚愕するヌメ。何故か沈痛な面持ちで頭を抱えるバロモンさん。あたしは、爽やかな笑顔で迷いなくうんと頷く。心は妙に晴れやかで体は軽い。まるで背中に羽でも生えたよう。うふふふふ。今ならきっと空も飛べるさOn My Love!
 けれどそんなあたしに、バロモンさんはまるで腫れ物にでも触るようにそっと肩に手を置いて、化け物面に精一杯の優しい笑顔を浮かべる。

「ハナさん。いいですかな。人生というものは確かに平坦な道のりではないかもしれません」
「うふふふふふ……え? はい?」
「しかし、しかしですな。その、何と言いましょうか、希望だけはいついかなる時も手放してはいかんのです!」
「はあ、えぇと……何の話です?」
「諦めては、いかんのです!」

 ぐわっしとあたしの肩を掴み、何故だかその目に涙を浮かべる。リアル鬼の目にも涙である。てゆーか意味わかんないんですけど。

「冷静に……そう、先ずは落ち着くのです!」
「いや、落ち着いてますけど」

 何を言ってらっしゃるのかこのなまはげさんは。あたしは冷静だ。素数を数えてBe Cool! So Cool! Yeah!
 あたしはバロモンさんの手をぽんと叩いて、自分で言うのも何だが菩薩の如き顔で静かに言葉を接ぐ。

「聞いて、バロモンさん」
「ハ、ハナさん?」

 思いを馳せる。幼いあの日、かくれんぼの最中に迷い込んだ、クローゼットの奥に広がる不思議な冬の森。すべての始まりだったあの出来事。うん。違うわこれ。フィクションの奴だこれ。あれ? どれが現実だったかな? まあいいか。

「あたしは、確かにただの迷子かもしれない」
「いえ、かもというか間違いなく……」
「でも、でもね! 誰も彼もが、初めから英雄だったわけじゃないと思うの」

 不思議の国に迷い込んだ少女だって、何の変哲もないただの女の子だった。物語の世界の女王様を救った少年だって、本が好きなだけのただの男の子だった。魔法界を救った眼鏡の少年だってじゃないや、あれは生まれながらだったわ今のなし。
 ともかく、英雄と呼ばれた人たちが誰しも最初から英雄だったわけではないのだ。たまたまそこに居合わせて、たまたま成し遂げる術を持っていた。きっと、ただそれだけのこと。そんな偶然を、あたしは“運命”と、そう呼びたい。

「選ばれし子供、って言ったっけ。きっとその子たちも、選ばれただけじゃないと思うの」

 自ら踏み締めてこそ、始めて道となる道もある。運命の女神様は、踏み出す勇気を持たない臆病者には微笑まない。

「あたしは、自分で選びたいの。自分の足で進みたいの。だから……だからね!」

 バロモンさんは困惑気味に、それでも黙ってあたしの言葉を待った。隣ではどうしてかヌメが小さく震えていた。
 そう、あたしは……!

「だからあたし、ちょっと世界救ってくるね!」
「……いやいやいやいやいや」

 曇りなき眼に決意の火を点す。何故だかバロモンさんは困り果てた顔で首を振るが、もはやこの道を阻むことなど何人たりともできはしない。

「ハ、ハナさん! ですから先ずは一旦落ち着い――」
「感動した!!」

 バロモンさんが何やら訳の分からぬことをおっしゃりかけたその時、被せるように叫んだのはヌメだった。その目からぼろぼろと零れ落ちるのは大粒の涙。

「解る、解るぞ! そうだとも! 道を切り開くのはいつだって自分自身だ!」
「な……何を言うておる!?」
「何をじゃねえよ首様! こんな、こんな気高い決意を首様は踏みにじるってのか!?」
「い、いや……」

 思わず狼狽するバロモンさんを尻目に、ヌメの目玉がぐりんとあたしを捉えて見据える。うわーお、きんもい。だがしかし、

「ふ、まさかあんたが最初の理解者だなんてね」
「運命ってのはいつだって気まぐれなお姫様さ」
「ヌメ……」

 いまいち意味分かんなくてスタイリッシュかどうか判断に迷ったが、なんかいいこと言おうとしてくれてはいるのだろう。否、元より言葉などいらないのだ。目と目で語らう。こうして間近で直視するとなおキモかった。

「あんな出会い方だったけど、案外いいコンビになれるかもな」
「そうね。そう……え? コンビ?」
「ああ! これからよろしくな、そう……パートナーとして!」

 パートナー。そんな言葉が踊るように頭の中を巡る。デジモンとともに戦い、進化をもたらすもの。そう、ヌメは語った。それこそが救世主としてのあたしの役割。そう、その通りだ。言葉を反芻し、そうして、ふと笑う。

「ああ、うん……」

 返す声は自分でも驚くほどに低く冷たい。

「え!? あれ? あれあれ? ちょっと待って何そのドブ川の底みたいな目!? 星空みたいなさっきまでの目はどこへ!?」
「あ、いや……何か思ってたのと……」

 魔王倒しに行きますって王様に言ったら剣じゃなくてトイレのスッポン渡されたような、酒場でともに戦う仲間を募ったら酔っ払いがあいと手を挙げたような、そんな違和感。違和感と呼ぶのもおこがましいほどの間違い。間違い探しにもならないバグ。リセットボタンどこだっけ。
 途端に体温を下げる情熱。直視できぬ現実から逃げていたマイハートがすごすごと出戻るような。そして、あるいは当人にその気はなかったかもしれないが、バロモンさんの放った言葉が畳み掛けるように追撃を加える。

「いや……そもそも、何を救いに行かれるおつもりなので?」
「何って、え?」
「何を言ってんだ首様! 世界の危機に決まってんじゃねーか! なあ!?」
「あ……そ、そうよ。瀕してるんでしょ? 危機に!」

 だからこそ救世主が呼ばれたのだ。呼ばれ、たの? 呼ばれたっけ?
 首をかしげてみせれば、バロモンさんは困ったように頬をかく。

「いや……その、特には……」
「トクニハ?」
「はい……瀕しては、おらんのです。その、申し訳ない」
「……ああ」

 はいはいはい。成る程ね。瀕してはいないわけだ。いないんだ……。そうなると、あれか。とどのつまりあたしってえーのは、あれでございますか。

「つまり……」

 顎に手を当て思考する。謎はすべて解けたとばかり。あたしの真摯な眼差しに、バロモンさんが目を逸らす。犯人はお前ですか! 違うな。違うわ。

「あたしって、ただの迷子?」

 遠めに一周回って辿り着いた結論は、うん、さっき聞いた奴だこれ。
 いやいやいや、待て待て待て。何言ってんださっきからあたしは。落ち着けあたし。素数を数えてそう……って素数って何だ、アホか! 冷静な奴がこんな時に素数なんか数えるか。アホか!

 うずくまって頭を抱える。
 ええと、そう、冷静に。まずは一旦とりあえず何を置いても落ち着こう。
 あー、なんだ。あたしはなんだ。迷子か。迷子だ。迷子だよ!

「ど、どうしたハナ! しっかりしろ! 世界を救いにいくんだろ!?」

 ええいうるさい。お前がしっかりしろ。これ以上あたしを惑わすな。そしてあたしもしっかりしろ。何を乗せられているんだ。いや、言い出したのあたしだった気もするけど。
 ぶるんぶるんと頭を振る。ヌメはなおも喧しく喚く。バロモンさんが顔に似合わずわたわたとする。ちょうど、そんな時だった。

 どおん、と、激しい空気の震えが鼓膜を叩いたのは。

「ぅえ!? え、何ぃ!?」

 突然の爆音に心臓が口から飛び出しかける。とまではいかないにせよ、今朝のたくあんくらいは逆流しそうになりつつ息を呑む。慌てて窓に駆け寄るバロモンさんに遅れること少し、そろりとその背中越しに外を見る。

「何ということだ……!」
「長様、あいつらまさか!?」
「え!? 何!? 何なの!?」

 窓の外に見えたのは細く立つ黒煙。逃げ惑う村の住人らしき小さな生き物たち。そして、黒煙の足元にゆらりと揺れる、三つの影だった。

「ちょ、ちょっと! 何なのよ!?」

 とうとう来やがったか! みたいな顔してないで説明しろよこの野郎! てゆーか危機には瀕してないって今さっき言わなかった!?
 と、あたしがつかみ掛からんばかりの勢いで詰め寄れば、バロモンさんはぎりりと歯牙を鳴らし、物思いに耽るように一度だけ空を仰いで静かに語り出す。結構暢気だね!

「奴らの名は“グレゴリオ幻想兵団”……! かつて世界を席巻した強欲の魔王が臣下たち、その生き残りたちによって結成された盗賊団! が、内部抗争によって分裂したことで新たに再結成された盗賊団! が、とある勇敢なデジモンたちによって壊滅させられた後、からくも逃げ延びたその残党たちなのです!」

 なのですって言われても。

「つまり……ええと、どういうこと?」
「何言ってんだよハナ! つまり、お前の出番ってことだ!」

 今こそ世界を救うのだとばかり。ぐっと拳を握りしめ、吠えるようにヌメが言う。そこ拳だったんだ。
 てゆーか、え? これあたしの出番? 何が!? なんかメインのイベントことごとく終わってるみたいに聞こえたけど!?

「奴らは兵団の先兵――ゴブリモンだ!」

 戸惑うあたしにも構わず、ヌメは村を我が物顔で闊歩する三匹の小鬼を指差して声を上げる。指あるんだ。

「一匹ならただの雑魚だが……一、二、何てこった! 三匹もいやがる! まあまあ手強いぞ!」
「まあまあなんだ……」
「ゴブリモンだからな!」

 ゴブリモン……成る程、ゴブリンか。こん棒を持ったいかにも頭の悪そうな小鬼。確かに見た目はRPGでよく見る雑魚オブ雑魚ことゴブリンそのもの。世界の危機には程遠いな。オープニングとしては妥当な難易度という気もするけれど、でもこれあたしのパラメータまだ限りなくただの村人その一なんだけど!?

「ようし! 行くんだハナ! お前の力を見せてやれ!」
「は、はあ!? 無茶言うな! てゆーかあんたさっきパートナーやるっつったでしょ! 行くならあんたじゃないの!?」
「……え?」
「え、じゃなくて!」

 ずびしっと指を突き付けてやればヌメはしばし思案するように眉をひそめる。眉どっから生えたんだろう。そうして、はっとなる。

「ホントだ! どうしよう!?」

 ははーん。分かった、成る程ね。さてはバカだなこいつ!? バーカバーカ!
 何て、言ってる間にまた爆音が一つ。黒煙と悲鳴が上がる。言ってる場合じゃないよこれ!?

「ちょ、ちょっと! ホントにどうすんのよあれ!? 行くなら早く行ってよ!」
「無茶言うなよ! ヌメモンだよオイラ!?」

 いや、ヌメの立ち位置は存じ上げませんけれども。同じ無茶言ったのどっちだよ!
 やいのやいのと言い争う。見付かると怖いからそこそこ声は抑え目に。曲がり成りにも世界を救うと宣ったあたしとヌメがそんなことをしていると、突如外から聞き覚えのある声が轟いた。

「待てえい!」
「ゴブ?」
「これ以上の乱暴狼藉は許さぬ!」

 この村の長として、と。そう続けたのは真っ赤な髪を逆立てる見覚えのある背中。だん、と地を踏み鳴らし、声を荒げる。その姿にあたしたちは目を丸くする。

「バ、バロモンさん!?」
「長様ぁ!?」

 名を呼べば一度だけ振り返り、こくりと頷く。ここは任せろとばかり、背中で語る様はこの場の誰よりよっぽど勇者だった。バロモンさんは眼光鋭くゴブリモンたちを睨み据え、そうして、おもむろに両の手を天にかざす。その様にヌメが驚愕の表情を見せる。

「まさか長様……“あれ”をやる気か!?」
「あ、あれって?」

 問えどヌメは答えない。見ていれば分かるとその表情で語る。普通に教えちゃいけない決まりでもあるのだろうか。
 ややを置き、バロモンさんはゆっくりとかざした手を水平に広げる。たったそれだけの所作。だというに、沸き立つマグマが如き言い知れぬプレッシャーに、ゴブリモンたちさえもが微動だにできない。ごくりと、固唾を飲む。その、刹那。

「ふぉっ、おお……ふぉはああぁーー!!」

 牙の列ぶ鬼面の口から、弾けるような叫びが静かな密林にこだまする。広げた両腕を右へ左へ激しく振るう。それはさながら逃げ惑う獲物に追い縋る蛇のように。

「はあ! はっ! ちょいやっさあぁ!!」

 裂帛の気合いが怒号となって爆ぜる。その叫びと動きに、あたしの頬を一筋の汗が伝う。これは……!

「ヌメ……」
「む、何だ?」
「バロモンさんがとち狂ったみたいなんだけど」

 追い詰められ過ぎた弱者の末路か。くねくね踊って奇声を上げる憐れなその姿に、思わす視線を逸らす。もう駄目なんだ。あたし、ここで死ぬんだ……。お母さん、お父さん、ごめんなさい……。

「って、おおぉーーい!? 何諦めてんの!? 違うから! とち狂ってはいないから!」
「へぇ?」

 膝から崩れ落ちたあたしにヌメが叫ぶ。長い舌がベロンベロンとうごめく様は不愉快以外の何物でもなかった。

「あれは長様の必殺技――“メテオダンス”だ!」
「メテオ……ダンス?」
「そうだ。大宇宙の精霊に祈りを捧げ、空を漂う星の欠片を落とす禁断の必殺技だ!」

 禁断の……必殺技!?
 大宇宙から星の欠片でメテオ!?
 あたしの聞き間違いかもしれないがもしかしてあの変な踊りで隕石落とすとかおっしゃってらっしゃってございますか!?

「ちょ、ちょっと待って! え? メテオ? 落ちるの? ここに?」
「その通りだ! あんな奴ら一瞬で消し飛ぶぜ!」

 消し飛ぶぜじゃなくて。そこに至る過程はまあ置いておくとして、問題はそんなことじゃなくて、

「あ、あたしたちは!?」
「ん? 何がだ?」
「だから落ちるんでしょ、隕石! ここに! こんな傍にいるあたしたちは!? ま・き・ぞ・ええぇ!!」

 食いかからんばかりに詰め寄る。食わないけどこんなもん。ヌメはあたしの言葉に少しの思考を置いて、そしてまたはっとなる。

「ホントだ! どうしよう!?」

 やったから! それさっきやったから! 馬鹿なのもう知ってるからあ!

「バロモンさーん! ストップストップ! それちょっと待ってお願いだからあ!!」

 窓から身を乗り出して叫ぶ。けれど奇声と奇妙な踊りは止まらない。気のせいか村の上空で雲が渦巻き始めているように見える。いぃーやぁー!? 何か、何か兆しが! 本当に隕石落ちるのかはまだ半信半疑だが、確実に何かが起ころうとしている! 気がする!

「無駄だ! トランス状態の長様にオイラたちの声は届かない!」

 届かない! じゃねえよ! 慌てろ! 危機! 命のっ! てゆーか!

「ちょっと、ゴブ!」
「ゴ、ゴブっ!?」
「見てないで止めなさいよ! 死にたいの!?」

 目の前で物凄い隙だらけな必殺技が放たれようとしているというに、あのゴブリモンどもはさっきから何をぼけっと見ているんだ。あたしの平和のために戦え! 何かが色々間違ってる気はするけれども!

「ゴ、ゴブブ?」
「ゴブゴブ。ゴブゴブリ!」
「ゴブぅ……」

 戸惑いながら何やら話し合う。何を言ってるのかあたしにはさっぱりだが……。

「ヌメ、何て言ってんの?」
「ゴブゴブ言ってる」
「……ああそう」

 こうなれば頼れるのは己のみ、か。役立たずどもにはもはや頼らない。戦う決意を胸に拳を握る。なんか標的変わったけど、愛と正義の前では些細な問題だ。
 今こそ英雄の何かあれ的な奴が試されているのだ。覚悟を決めて、外へ飛び出さんと窓辺に足をかける。だが、まさにその瞬間だった。

「キィエエエェーーイ! エアアァ!!」

 絹を裂くような甲高い声が響く。例えるならなんか気持ち悪い未確認生物の断末魔みたいな。
 ざりゅ、と地を蹴って、片足でコマのようにくるくると回る。飛び散る汗に陽光が煌めいた。なんだこれ。
 地を踏み締める。片腕をゆっくりと掲げ、空を仰いで静かに言葉を紡ぐ。

「ワン……ダラぁーーあぁぁ……!」

 そうして、どさりと倒れ伏す。

「お、長様あぁぁー!?」
「無念……もはやここまでか……!」

 何が!?
 最初っからなにもかも解らないままだけど、何が!? 理解できてないのあたしだけ!? 何が起きてるの今これ!?

「くそっ、よくも長様を……!」

 と言われても、見たところゴブどももただただ戸惑っているように見えるのだけれども。

「ちょ、ちょっと! 何がどうしたの!? 失敗したの?」

 身を起こしながら振り返ってヌメに問う。何で今起き上がろうとしてるかっていうとバロモンさんの声に驚いて窓枠に足引っ掛けてすっ転んだからなのだが、今はそんな瑣末なことはどうでもいい。ヌメはぐっと小さく呻いて――けれど、

「いや、違う! あれを見ろ!」
「あれ?」
「ゴブ?」

 軟体からにゅっと突き出た手らしき部分で空を指して叫ぶ、その声にゴブどもも釣られて視線で追う。やっぱ手なんだそれ。ヌメの指す空の果てできらりと何かが光る。鳥か、飛行機か、いや違う。あれは――!
 空の高みより瞬く間に飛来するそれ。何だ何だと見ている暇もなく――ゴズン、と、空を見上げていたゴブの頭で鈍い音。

「ゴブ!?」

 倒れる仲間に他のゴブが驚きの声を上げる。と、また次の瞬間に、ズゴン!

「ゴ、ゴブゴブぅ!?」

 はっと、残る一匹が倒れた仲間から空へと視線を戻し、その正体を見極めたかただの本能か、慌てて横合いへ飛び退く。一瞬を置いてその影を何かが貫く。回避したゴブの真横、地面に突き刺さったそれは――拳大の、石ころであった。
 隕……石? いや、うん、隕石か。規模までは聞いてなかったが、うん、隕石だね。いや、倒したしいいんだけどね。

「ゴブぅ、ゴブぅ!」

 緊急回避で辛くも難を逃れた最後のゴブが、尻餅をついたまま鼻息荒く喚き立てる。続けざまに仲間を倒され、その顔は何をどこからどう見ようが怒り一色の真っ赤に染まる。ともすれば蒸気すら噴きだしそう。
 自分自身も九死に一生でありながらある意味で見上げた根性ではあるが、いや、てゆーか、あれ? これはもしかしてもしかしなくても、

「ゴっブぁああぁぁ!!」

 怒号が轟く。さっきので腰を抜かしかけたか若干へっぴり腰ではあったが。とにもかくにも、うん、キレてらっしゃる。

「ちょ、ちょっとヌメ。ヤバイんじゃないのこれ?」
「そ、そうだな……いや、でも、どうしよう?」
「どうって……」

 鬼の形相でこん棒を振りかざし、ゴブは倒れたバロモンさんへと迫る。まあ元から小鬼だけどって今はそんなこと言ってる場合じゃない! バロモンさんはどうやら立ち上がれそうにもない。そんな村長の危機にもヌメはおろおろとするばかり。
 ああん! もう! あんたって奴は!

「ぐだぐだ言ってないでぇ」
「は、え!?」

 ぐわっし、とヌメの触角をわしづかむ。触角の先で二つの目玉がぐるんと回ってあたしを見る。びっくらこいたとばかりに見開いて。目玉だけだけど多分なんかそんな雰囲気。けれど……驚くのはまだ早い! さあ!

「行ってこおおぉぉぉい!!」

 そのまま腕を振り抜き、迫るゴブ目掛けてヌメをぶん投げる。一回くらい根性見せてみろやこのヘタレがあぁ!

「にゃぎゃああぁぁ!?」
「ゴブ!?」

 バロモンさんへ意識の行っていたゴブも、密林に響き渡る情けない悲鳴に気付いて咄嗟に振り向く。けれど、既に遅い。
 ぬちゃ、と、気色の悪い音を立ててゴブの顔面にヌメが勢いよく張り付く。
 パワーとコントロールを兼ね備えたワンダフルなピッチング。タイミングもパーフェクト。この強肩ならメジャーも夢じゃないね!

「グぉブぬむむぅ〜!」
「ぎゃあああぁぁ〜!」

 顔を覆うヌメを引っぺがそうと暴れるゴブ。しかしぬっちゃぬっちゃとゴブの頭をはい回りながら、ぐねぐねと形を変えるヌメに思わぬ苦戦を強いられる。ヌメヌメな体はぬるりとゴブの手をぬめり抜け、たとえ掴んだところで軟体が伸びるだけ。おお、意外と使えるじゃない。でも触角掴んだ手は後で洗おう。
 しかしとにもかくにも今のうちだ。あたしはゴブリン対スライムのワクワクしないドリームマッチを横目に、倒れたままのバロモンさんに駆け寄る。

「バ、バロモンさん? 大丈夫?」
「お、おお、ハナさん。面目ない……どうやらわしはここまでのようです」

 いや、だから何が!? 踊り疲れただけじゃないの!?

「ホントに無理? 後一匹残ってんだけど、なんとかもう一発くらいいけたりしない?」
「おお……こんな様の老いぼれにも容赦ありませんな。いえ、何とかしたいのは山々なのですが、生憎とその、腰が……」

 腰かよ! 今際の際みたいな顔しといて腰かよ! くそう、だが確かにこれ以上は無理か。他に誰かいないのか!
 辺りを見回せど、目につくのは心配そうに顔を覗かせる、村の住人と思しきなんかちっちゃい生き物たちだけ。まあ可愛い。戦力には到底なりそうもないけれど。
 ヌメに視線を戻す。相変わらずぐにんぐにんと気色悪い軟体でゴブの攻撃をかわしつつその顔にへばり付いている。時間稼ぎにはなっている。なってはいるけれど、稼いだところで打開策がなければ意味はない。
 いっそ逃げるか。なんて心の中の悪魔が囁くが、さすがにこんな状態をほったらかしていくのは寝覚めが悪い。行く当てがないだけとかそんな外道な理由では決してない。あくまで正義感である。

「ぬグおぉぉグブブぅ!」
「ぎゃああ! 無理無理もう無理ぃー!」

 ぐにょりぐにゃりと軟体を変形させ、もはや何が何だかわかんない状態で叫ぶ。ヌメの目からはじょばじょばと涙が溢れ、口からはよだれが飛び散る。きったね。しかし、見たところどうやら本当にそろそろ無理っぽい。
 あああ! ったくもう!

「ハ、ハナさん!?」

 こんなのあたしの望んでたファンタジーじゃない! じゃないけど、もうやるしかないじゃない!
 バロモンさんを置いて走り出す。向かう先はヌメと組み合うゴブ――ではない。明後日の方向に駆け出すあたしにバロモンさんとヌメが驚愕する。うっせー黙れ! いいから、気付かせるな!
 あたしは走る勢いそのままに、腕だけを地面に伸ばして“それ”を掴む。駆ける足を緩めず孤を描くようにカーブする。少しだけ遠回りして辿り着いたのは、ぬちょぬちょと絡み合うヌメたちの目前。
 気付くな気付くな気付くな! 呪文のように繰り返して、先程拾い上げた“それ”を、バロモンさんのミニ隕石を脳天に喰らって倒れたゴブの、そのこん棒を握りしめて、これでもかと振りかぶる。
 やあってやらあぁ!
 気合いが鼻から吹き出さんばかりにあたしのハートが轟き叫ぶ。だが、その間際。

「ゴブ!?」

 ぐにゃりと伸びた軟体の隙間からあたしの姿を捉え、ゴブもまた咄嗟にこん棒を構える。互いに間合いまで後一歩、なのに、あああ! ここまで来て気付かれた! 今更止まれやしない! どうする!? そしてここまで何秒だこれあたし!

「ヌメえぇ!!」

 気付けば叫んで、そのまま一歩を踏み出しこん棒を振り下ろす。あたしの声から僅か一瞬、

「ぬぁきょあぁぁ!!」

 酷い奇声を上げながら、ヌメがゴブの顔から腕へと飛び移る。突然の重量に、あたしを迎え撃とうとこん棒を構えていたゴブはバランスを崩す。うおおし、よくやったあ! ちょっとだけ見直したぞ! 後はあたしにぃ……!

「ぬぅおぉりゃああぁぁ!!」

 任せろこんにゃろおおぉぉ!
 こん棒を握り砕かんばかりに力の限りを込めに込める。吠えろ筋肉! 燃えろ血液! 目覚めろあたしの細胞おぉ!
 雄叫びを上げてこん棒を振り抜く。ごごん、と鈍い音に一瞬遅れてあたしの腕に伝わる衝撃。昂る精神が時間を置き去りにする錯覚。硬質の頭蓋とこん棒に散る火花が酷くゆっくりと見えた。
 ゴブの頭が右へ左へ振り子のように揺れる。大きな目玉がぐりんと裏返る。だらしなく大口を開けて、その体が、静かに倒れ伏す。

 そうして、戦いは決着する。

 はあ、と一際大きく息を吐く。現実味のない感覚。浮遊感にも似た気持ち悪さが襲う。静まり返るジャングルに一陣の風が吹いて、

「お、お……おおお! ハナあぁ!」

 最初に声を上げたのはヌメだった。その声にどういうわけか少しだけ、ほんの少しだけ、あたしは安堵を覚える。
 ヌメの歓喜に、続けとばかりに村中のちびっちゃい生き物たちが沸く。小さな村が、大きな歓声に満たされる。
 最初からずっと訳が分からないまま。分からないまま戦って、喜ばれて、正直ちょっと気分はよかったけれど、何だか……どんどんとんでもないことになってるって気も、しなくもなくもなかった。

 こん棒を放り出してへたれこむ。今更やって来た震えに手足が言うことを聞かない。腰抜けてる気がする。

「救ぅー世ぇ主だああぁぁ!!」
「きゅーせーしゅー!」

 ヌメに続いて口々にあたしをそう呼ぶ村の愉快な生き物たち。望んだ通り。夢見た通り。その、はずなのだけれど。

「あ、ははは……」

 手を振り応える。その笑顔は乾いて引き攣って。周囲の熱気に逆に冷静になっていく頭。今あたしは多分、とんでもないことをしでかしてしまったのだ。そんな気がしてならない。羨望の眼差しが、なんだかちくちくと痛かった。




 じゅるると味噌スープを一口。ふうと溜息を一つ。さて、と。

「まずは、お礼を申し上げたい」

 畏まって深々と頭を下げるバロモンさんに、噴き出しそうになりながらも慌てて二口目の味噌スープを飲み込む。ちょっと鼻から出た気がする。

「い、いえ、たいしたことは……」
「おお、ご謙遜を。ハナさんのお陰でこの村は守られたのです。さあさあ、遠慮なさらずどうぞ」

 満面の笑みを浮かべて、バロモンさんはあたしの目の前に所狭しと並べられた料理の数々を勧める。次から次へと運ばれてくるその中には得体の知れない物体もちらほらと紛れてはいるものの、概ね美味しそうなものばかり。満漢全席か何かですかこれは。その様はまさに“おいでませ勇者様”。
 変な汗を流しながらひたすら味噌スープだけを流し込む。と、不意にぴょこぴょこと動く影が横合いに見える。目をやれば、白くて丸くて耳の生えた生き物が頭に皿を乗せて小さく跳ねていた。

「ニッコリンゴのパイです。きゅーせーしゅしゃま!」

 にっこにっこと微笑みながら舌足らずに言ったその生き物に、思わずきゅんとする。
 ……うあああ、もういいや。なるようになれ。あたしが救世主ですけど何か!?
 見た目普通のアップルパイを一切れいただく。うむ、んまい。

「さっすがオイラの見込んだ救世主だ! なあハナ!」

 なんて、ぬちょぬちょしながら騒いでただけの癖してやけに誇らしげなヌメをスルーして、アップルパイをもう一切れ。

「ところで、そんなハナにもう一つ頼みたいことがあるんだけど」

 パイに噛り付きながらちらりと視線をやる。期待に満ち満ちたヌメとちびちゃんたちのキラキラした目が見えて、脊髄反射にすら近い速度で目を逸らす。
 はい来たほら来たそら見たことか。そんなこったろうと思ったよ!

「ええと……おほほ、何かしら?」
「何だ急にその口調。いやな、実はさっきの奴らの仲間が他の村でも暴れてるらしくてな」

 まあ怖い。うふふふふ。
 何が言いたいのかは薄々、ほんのうっすらとなら何となく想像がつかなくもなくもないこともなかったけれど、あたしは自ら向き合ったりなど決してしない。現実となら、もう十二分に向き合ったから。向き合って、もう治ったから。リアル異世界に放り込まれるという荒療治で、中学半ばくらいで患うあれなら治ったから。治ったのだからして! せんせえぇー! 退院しますからあ!
 そんなあたしの心の叫びなど知る由もなく、ヌメは親指を立ててるっぽい動作で爽やかに微笑む。

「つまり、ハナの出番ってわけさ!」

 すっ飛ばしたねえ! 結論までひとっ飛びだよ! 言わなくても分かるだろみたいな顔すんじゃねえ!
 あたしは完治した。完治したから分かってる。凡人なんだよこちとらぁ!
 ゴブリン一匹殴り倒したところでレベルなんて上がるわけがない。そんな簡単に体力やら腕力やら上がるわけがない。テレレレッテッテッテーとか聞こえなかったもの。あたしのパラメータは依然として村人その一クラスだ。
 盗賊だか残党だか知らないがそんなミッションお断る。インポッシブルだもの。なのに、なのに……!

「きゅーせーしゅしゃま!」
「きゅーしぇしゃしゅま!」

 期待に満ちた目であたしを見るんじゃない! なんだよこいつら可愛いなあもう!

「これ、お前たち。無理を言うてはいかん。ハナさんにも都合があるのじゃからな」

 と言いつつバロモンさんはあたしの反応を窺うようにちらちらとこちらを見る。その目は言外に何かを訴えるよう。いやはやまさか本物の勇者様であらせられましたかとでも言わんばかり。あんたもかあぁ! 言ったじゃん! 迷子って言ったじゃん! さっきは止めたじゃねえかよおぉ! 揺れてんじゃねえよおぉ! 大体撃墜数はあんたのが多いだろうがあぁ!
 などと、この空気の中で声に出して叫ぶ勇気はなかった。とんだ勇者様でございますこと!

「やってくれるよな、ハナ!」
「え? いやぁ、あはは……」

 などど、頭を掻きながら目を逸らす。ちらりと、一瞬視線を戻せばこの世の終わりのような顔が見えた。

「うっ……いや、その……」

 こちらが戸惑えばあちらも戸惑うように眉をひそめる。ちびたちのキラキラした目に見る見る影が差す。ぐうう、だからそんな目で……! 卑怯だぞぉおーーい!
 視線が痛い。期待が胃にもたれる。ちょっとリバースしていいすか。へたれなあたしは「嫌です」の一言がどうしても搾り出せない。汗腺の蛇口がぶっ壊れたような滝の汗が止まらない。ぐぬぬぬぬと唸って――そうしてあたしは、にこりと微笑んでみせた。

「みゃか、任せなしゃい……!」

 弱々しく胸を叩く。嗚呼、言っちゃった。あたしのバカっ。
 僅かを置いて、小さなロッジの屋根を吹き飛ばさんばかりの歓声が再び沸き上がる。サイは投げられたのだ。投げたの多分あたしだけど。

「おお、ありがとうハナ! さすがは救世主だ! なんか顔色悪くて目が死んでる気もするけど、頼りにしてるぜ!」

 そこまで分かってるなら本音も汲み取れよこの野郎。なんて心の内で毒づいたところで何の解決にもなりはしない。ああん、もう! なるようになれだ! さっきも言ったさあたしが救世主だこんにゃろー! やってやらあぁー!
 ぐにんと一度だけ顔を歪めて、ふしゅーと鼻息を噴く。ヌメたちが怯えた顔をする。まあどうしたのかしら。うふふと微笑み、並ぶお皿に手を伸ばす。
 そしてあたしは、無心で満漢全席に喰らいつくのであった。




「おはよう、ハナ! 鋭気は養えたか?」
「ふ、ふふふ、おかげさまで」

 旅立ちは翌日の朝。開き直ってお腹いっぱい食べてぐっすり眠れば、腹が立つほど調子はよかった。

「いやぁ、それにしてもよっぽど腹減ってたんだな。まさか食べ切るとは思わなかったよ。完全体の2、3体分はあったと思うけど」

 そう言って笑うヌメの頬らしき辺りには一筋の汗が伝う。まるで得体の知れないものでも見るような失礼極まりない目であった。
 やだわもう、大袈裟ね。それがどれくらいの量かは知らないしよく覚えてもいないけれど、こんな華奢な女の子に食べ切れる量なんてたかが知れてるじゃない。ほんの数十皿よ。三桁はいってなかったわ。多分。うふふ。

「まあ何はともあれ、そろそろ出発するとしようか!」
「もう腹括ったわ。何でも来やがれよ」
「おお、頼もしいな! さすがは救世主だ!」

 自棄とも言うがな! けっ、と吐き捨てて、無造作に持ち上げたこん棒を肩に担ぐ。昨日の戦利品である。どう見ても勇者の装備ではないが、素手よりはマシと持って行くことにした。ゴブくらいなら上手くやれば倒せることも分かったわけだし。

「てゆーか、やっぱパートナーってあんたなわけ?」

 見るからに行く気満々なところを悪いのだが、できるならもう少し戦力的に頼もしくて生理的にあれじゃないのがいいんだけど。

「おいおーい、オイラじゃ不満だってのかー?」

 またまたご冗談をー、みたいな軽いノリでおどけてみせるヌメに、あたしはただ「うん」と頷く。そんなあたしにヌメはわざとらしくずっこけて、ぺろりと舌を出す。もう、ヌメちゃんったら。入念に叩いて刻んですり潰して塩振って深めに埋めちゃうぞ! 死ね!

「まあ、長様は腰があれだし他はちびばっかだしで、実際問題オイラしかいないんだけどな!」

 嫌な一択問題ですこと。断っても断っても同じ選択肢をループするRPGみたいな理不尽さだ。いや、無駄な選択肢を提示されなかっただけまだ親切設計だったろうか。どうもありがとうございましたあ!

「もういいし。行くよヌメ。あんたで我慢したげる」
「あれ、まだ全然そんな感じ? 割と温度差ねえ?」

 思春期の気候は不安定なんだよ。はあーあとわざとらしく溜息を吐いてすたすたと歩き出す。

「ハナさーん!」
「きゅーちぇしゃしゃまー!」
「ご武運をー!」

 声に一度だけ振り返り、手を振るバロモンさんとちびたちにぎこちなく笑い返す。

「ヌメモーン、しっかりやるのじゃぞ!」
「はっはっは、任せとけっての!」

 その自信はどこの異次元から湧くのだろうか。バロモンさんたちからは見えないよう、ヌメのほうを向いてあからさまに嫌そうな顔をしてやる。うん、なあに? みたいな顔すんな!

「あんたの前向き羨ましいわ」
「そうか? ハナも十分前向きだと思うけどな」
「そう見えたなら何よりですけど」
「つーかさ、そろそろその“あんた”とか“ヌメ”とか止めねえ? 一緒に旅すんだしさ」

 なんか距離縮めようとしてきだしたぞこいつ。この理不尽と不条理を踏み固めたが如きデッドオアアライブな修羅の道に、なにゆえ馴れ合いなどが必要だと言うのだろうか。

「てゆーか、あんたはともかくヌメはヌメでしょ。自分で言ったじゃない」
「いやいや、ヌメモン族はオイラだけじゃないしな。他にもいっぱいいるんだぞ」

 うわーい、やな世界。

「えーと、じゃあ何? なんて呼んでほしいの?」
「そうだな……あ、何だったらハナが付けてくれよ。オイラたちの友情の証にさ!」

 何情とおっしゃったろうか。聞き間違いだったとは思うけれど。ユージョー……You Joe? 何だっけそれ。誰だっけそれ。

「なあ、いいだろ。デジモンと一緒に戦った子供たちの中にはそうやって絆を育んだ奴らもいたらしいぞ」
「はあ、別に育みたくもないけど……えーと、じゃあ……」

 めんどくさいな。ヌメでいいじゃない。ヌメ、ヌメ、えーと、ヌー、ヌメ……。

「じゃあ、ヌヌで」
「ヌヌ!?」

 たっぷり2、3秒ほど熟考し、思い付いたナイスネーミング。よもや不満なんぞあるまいな、ああ〜ん? とヌメを見遣ればそこには満面の笑顔。うん?

「ヌヌ……おお、ヌヌか! いい名前だな、ありがとうハナ!」
「え? いや、うん、どういたしまして」

 どうやら不満はないらしい。ないのか。いや、願ったりだよ? あたしは全然ちっともこれっぽっちも一向に構わないんだけれどもね。なんかほら、あたしそれまだ本気出してないってゆーか。ねえ。うん。何言ってんだろ。いいや、もう。

「んじゃま、行くとしますか!」

 俄然張り切るヌメ、もといヌヌに溜息を一つ。こん棒を担ぎ直して足取り重く歩き出す。

「はあ……生きて帰れるかな」

 ぽろりと零れた救世主の弱音はしかし、今さっき絆とやらを育んだはずのそのパートナーもどきには届かない。前途は間違いなく多難。今の所はハッピーエンドの兆しの欠片も見えやしない。それでもこうしてあたしは、まっこと不本意ながら致し方なくも、この道を歩き始めるのであった。






>> 第二話 『花とパチモン男爵』へ続く







<登場キャラクター紹介>


■ヌメモン/Numemon

世代:成熟期
属性:ウィルス種
種族:軟体型
適応:NSo/ME/UK

暗くジメジメした場所を好むヌメヌメした軟体デジモン。
知性も闘争心も向上心もなく、ただ毎日をだらだらと過ごすだけのうんこ製造機。ピンチになるとうんこを投げ付けるロケンローなくそったれ。
だがその生態には隠された重大な秘密があるらしい。

名前の由来はラテン語で「数えると」を意味する「ヌメロ(Numero)」。デジタルワールドを構成する0と1の数列を数えるものであることを意味し、その名はデジタルワールドの安定を望むもの・ホメオスタシスより世界の観測者たる役割とともに与えられた最高位機密のコードネームなのである。嘘だけど。


小説「花と緑の」ではまさかのヒロインのパートナーとして登場。
自称知的生命体。ヌメモン本来の設定から考えるなら確かに恐ろしく高度な知性を有する個体だが、きっと彼の村には立体アミダでも置いてあるのだろう。それでどうしてそんな進化をしたのかは謎であるが。

第一話にして既にパートナーからモノローグでとはいえ二回も死ねと言われていたり、ぶん殴られたりぶん投げられたり、ドブ川の底みたいな目を向けられたりと散々だが、ちっともめげてはいない強い子である。



■雨宮 花/Amamiya Hana

世代:思春期
属性:惑珍種
種族:動物界脊椎動物門哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属ヒト型
適応:BD(ビガビガビゲストドリーマーズ)

リアルワールドより迷い込んだ人間の少女。成長期くらいならこん棒で殴り倒せるか弱い乙女。

必殺技は手近なヌメヌメを投げ付ける「ヌメリストライク」。


小説「花と緑の」のヒロイン。
14歳の中学生。中二病を患った暴走妄想ガール。治ったと本人は言っているがまだ大分怪しい。
黙っていれば知的な文系メガネっ娘だが黙ってはいない。四次元ポケットのような胃袋を持つ。情緒は不安定。