
【男装(?)】
これまでの粗筋!
ひょんなことから光のスピリットを手にしたヒナタ。元の世界へ帰る手掛かりを求めて旅を続ける最中、出会ったのは水のスピリットに選ばれた少女・マリーであった。
紆余曲折を経て旅の仲間となった二人は、スピリットを狙う謎の一団との戦いに日々明け暮れる。
そんな折、戦い終えたヒナタに「おつかれ」と声を掛けたマリーが、ふと問い掛けた。
「ヴォルフモンになってる時ってさ、何てゆーか、男装してる感じなの?」
問われてヒナタは少しの沈黙。ややを置き、進化を解いて人の姿に戻ると眉をひそめる。
「なにその質問?」
「うーん、いや、何て言うかね」
と次いで進化を解いたマリーは腕を組み、眉間にシワを寄せる。戦場のヴォルフモンを思い浮かべ、かねてよりの違和感を口にする。
「ヴォルフモンの時のヒナってちょっとさ、チューセー的? みたいな感じになってる気がするんだけど」
「中性的?」
「うん、喋り方が。なんか男の子っぽくない?」
言われてヒナタは戦いの最中の自分自身を思い返す。スピリットを手に、ラーナモンとなったマリーとともに敵に立ち向かう。そんな時、自分はなんと言っていただろうか。
『行くぞ、ラーナモン!』
だった気がする。
なるほど確かに、中性的どころかしっかり男性的だ。普段なら言わないだろう口調である。
なぜ、というなら、なぜだろうか。
ヒナタは初めてスピリットを手にした日、夢で見た“彼”を思い起こす。
「ヴォルフモンは、本来男性の人格だと思うわ。夢で見た雰囲気は……そうね、“騎士”って感じかしら」
「騎士かぁ。ラーナモンは元気いっぱいの女の子って感じだったかな」
「ふふ、マリーみたいな子ね」
「あはは、そうかも」
つまりは両者の人格が似通っているために周りからは違和感なく見えている、が、対して自分はそこに性別という大きな隔たりがあるせいでマリーが覚えたような違和感がある、ということだろうか。
ヒナタは思案しながらヴォルフモンに進化している時の自分を改めて思い返す。
「声っていつもの私だった?」
「うーん、そういえばちょっと低い気もする」
「性格とかも違ってたりする?」
「やる気は満々だよね」
言われて己を顧みて、そしてヒナタは一言疑問を口にする。
「それもう私?」
なんて、人に聞くことではないけれど。
「てゆーかヴォルフモンの恰好でいつもどおりじゃオネエっぽいよね」
「オネエ?」
そんなマリーの言葉にふと思い浮かべてみる。
『行きましょう、ラーナモン』
なるほど確かに、もはや違和感しかあるまい。
こうして考えてみると自分は思いの外に女の子っぽかったのだなと、ヒナタはしみじみと思う。
「でも……う~ん、やっぱり男装って感じじゃあないわね。何て言えばいいのかは、正直よくわからないけれど」
「そっかぁ。まあ、わかんないことだらけだもんね、これ」
なんて言い合い、笑い合う。
つまるところの結論としては、結局何にもわからないということでしかなく、この話にも落ちらしい落ちはないのであったが……彼女たちが仲良さげにお話しをしているというこの光景に、そんなものはそもそも必要もないのである。
うむと、高台の上から二人の姿を見詰める怪しいデジモンたちは――“可憐なる妖精ラーナモン様&男装の麗騎士ヴォルフモン様ファンクラブ”の面々は、満足げに頷き合うのであった。
彼らが何者であるかは元より、その存在すら眼下の二人は知る由もないのだが――そんなことは、瑣事である。
-終-