
【正義の女神】
その出逢いは運命だった。
一目見たその瞬間に雷でも落ちたような衝撃が脳天から全身を突き抜けた。
凛とした佇まい。精悍な横顔。玉の肌は透き通り、栗色の髪は絹の糸を編んだよう。愛らしさもありながら瞳の奥には強く意志の火が点る。
それはまさに、正義の女神だった。
彼女が視界に映る度、世界が一変する。まるで今まで見ていた世界が色褪せた無声映画のようにさえ思えた。
あまりにも華やか過ぎるプリマに、隣に見切れていたエキストラがクラスメートだったことに気付くのも時間を要した。
あの人は一体誰だと、問えばクラスメートにはにやにやされるが、体裁を気にしている場合ではない。
まさに女神だと、言えばクラスメートの女子はにこやかに微笑む。
「うわぁ、普通に気持ち悪いね」
などという言い草は心外だったが、今はそんなことさえどうでもよかった。
たとえるなら、あるいは蝶。
ベルベットにも似た薄羽を広げ、優雅に風と舞う。
あるいは向日葵。
山吹色の花弁を広げ、地上に輝く小さな太陽のよう。
語れば語るほどにクラスメートの目は見る見る冷たくなるが、我が心は炎のように燃えていた。
今ならどんな侮蔑もさらりと流せよう。
「でもマサヨシにヒナは荷が重いと思うなー。年上だし」
「そうか……ヒナさんというのか。可憐だ」
「あはは、駄目なやつだねこれ。おーい、かむばーっく」
バックする必要などない。あろうはずがない。この情熱のまま、恋という名の荒野を突き進もうではないか。
歳の差も2,3歳ならあってないようなものだ。障害などどこにもない。さあ行こう、この道の果てへ。さあ咲かせよう、この愛の花を!
「マサヨシくーん、全部声に出てるよ」
「聞き流せ。で、どこに行けば会える?」
「友達としては止めたいとこだけど、一回派手に散ってこいって気もするから教えたげる」
「露崎……! 感謝する。散る気はないがな!」
居場所を教えられて意気揚々と駆けていく。結果はいうまでもなかったが彼の心は空へと羽ばたき舞い上がるように、14年の人生で最高の輝きを放っていた。たとえ散ったとしても、たとえじゃなく散るのだが、彼には微塵の後悔もなかったことだろう。それほどまでに、奇跡のような出会いだった。
そう、それはまさに、正義にとっての女神だったのである――
-終-