
【私のダーリン】
ダーリン。ダーリン。私のダーリン。
嗚呼、あなたのすべてが愛しいの。あなたが私のすべてなの。あなたのすべてでありたいの。
ダーリン。ダーリン。私のダーリン。
凛々しい横顔が素敵なの。風になびく金糸の髪が綺麗なの。黒鉄の銃を構えて獲物を狙う、その目に私のハートはバキュンなの。360度どこから見ても、365日いつ見ても、あなたの全部がいつでもずっと大好き。
ダーリン。ダーリン。私のダーリン。
ねえ、覚えているかしら。初めて逢ったあの日のことを。黒衣をひらりと翻し、あなたは私の前へと舞い降りた。逃げ惑う私を執拗に追い掛ける、悪漢たちの前に立ちはだかった。
ダーリン。ダーリン。私のダーリン。
強くて優しくて誰よりも美しいあなたが好き。私のナイト、私のプリンス、嗚呼、私のダーリン。フォーエバー! 届け私の、この想い!
「……いや」
街中でくるくる踊って歌って祈るように天を仰いで、割と全部声に出して叫ぶ。間違いなく気のせいだがスポットライトの中で紙吹雪が舞っているようにすら見えた。そんな少女に当のダーリンは、突き刺さる好奇の視線とひそひそ声の中、疲れ切った様子で溜息を吐く。紫紺の仮面の奥では眉間に深々としわを寄せていた。
デジモンには本来、性別というものがない。人間の目から見るなら外見や性格に雌雄としか呼べないような差異はあるものの、彼ら自身には雌雄の概念自体が存在しないのだ。
だが性別はなくとも当然、心はある。好意や愛という感情も持ち合わせている。だからこそ、恋慕に似た思いを抱くこともある。
そんなこともなくはないという、極端な一例ではあったが、彼女の想いは決して奇異の目で見られるべき類のものではなく、むしろデジモンが高度に進化を果たした証とも言える。
ただ一つ、大多数の人間の感覚からは若干気になってしまう点があるとするなら……本人にとっては極めて些細な問題でしかないのかもしれないが、見た目も性格も互いに、女性同士であるということくらいであろうか。
「だぁーっ、もう! いい加減にしろ、ノワール!」
「ああん! つれないんだからぁ、ベルお姉様ったら!」
黒の修道服をひらひらと揺らし、少女が甘い声で言えば、ダーリンこと黒衣の銃士は頭を掻きむしりながら返す。
それはあるデジモンの、恋の話であったという。
-終-