
【猫背】
私は猫背である。
夏目漱石みたいに言ってみたがこれでも真剣に悩んでいるのだ。
私はただでさえ同世代と比べて背丈が足りていない。だというに、より縮こまっては一回りも下に見られてしまうことすらある。
小さいことがハンデと思ったことはない。ないけれど、もっと背丈があればと思わなかった日もない。
ある日、思い切って幼なじみに相談してみることにした。
本人はそれほど大きい訳でもないが、博識な彼のことだ。何かいいアドバイスをくれるのではとそれなりに期待を込めてのことだった。
「いや、それはそれで愛らしいのではないだろうか」
「ふうぇっ!?」
特に有益なアドバイスはなかった。が、なんだか満ち足りた気分だった。
ならもういいかとも思ったが、話を聞いたでかい友人がわざわざ来てくれたので一応彼女にも助言を求めてみた。
「そうねえ、まずは走り込みかしら」
「え?」
「足腰は全身の基礎よ。差し当たってはあの山の頂上まで2、3往復してみましょうか」
そう言って彼女が満面の笑みで指差したのは山だった。紛う方なき普通に険しい山だった。
筋肉女に聞いたのが間違いだった。
ならもういいや。改めてそう思った時、入れ違いにやって来たのはまた別の友人だった。彼女も私のためにわざわざ来てくれたのだという。
性根が捩曲がっているのできっと冷やかしだろうとは思ったが、門前払いもさすがに気が引けたので話くらいは聞くことにした。
「せ、背が低いの気にしてるんだって? ふ……ぶぷっ! ア、アハハハハ! おっかしぃ! アハハ!」
とりあえず筋肉女に止められるまで取っ組み合った。
性悪女に聞かれたのも間違いだった。
そもそもの話として私は背丈をどうにかしようなどとは思っていない。そんなもの一朝一夕でどうこうなる訳もないのだから。
話を戻すと猫背である。せめて姿勢くらいはどうにかしたほうがいいのではと思っただけなのである。
私は再び幼なじみに聞いてみることにした。やはり一番まともな知り合いは彼だった。アドバイス以外を期待してのことでは、断じてない。断じてだ。
「むう、ならばやはり進化しかないだろう。容姿という点では今のままで十分だとも思うのだが……」
「ふにゃ!?」
そう、それはある白いにゃんこな乙女の、ささやかで贅沢な悩みであったという。
-終-