
【ヴォルフモンに進化したヒナちゃん&インプモン】
『もしも、ヒナちゃんがヴォルフモンに進化しちゃったりしたら……』
そんな妄想に浸るのはゼブブナイツの諜報部隊に所属するモニタモンズの一人、コードネーム「いの八番」である。顔がブラウン管テレビでできている彼らは仲間同士でのリアルタイム通信を可能とし、その能力を買われて諜報部隊へと配属されたのだ。現実のブラウン管テレビにそんな機能はないが、それはそれである。
『ヴォルフモンに進化したヒナちゃんがインプモンと肩を並べたりして……』
なんて、ちゃん付けやら呼び捨てやらと失礼極まりない呼び方をするのは、彼らが外部より招かれた客将の配下であるがゆえ。平たく言うならば傭兵である彼らにとって、魔王やジェネラルは雇い主ではあっても忠誠を誓う対象ではないのだ。という、言い訳を理由の一割として用意しつつ、九割は単に元々の性格ゆえである。
『いや、身長が違い過ぎていまいち様にならないな。なら……』
妄想はなおも続く。
彼らに科せられた任務は一言で言うなら「スピリットの探索」である。ゼブブナイツには三種のスピリットとその適合者たる三人の人間がいるが、十闘士とは十人揃ってこそ初めて本来の力を発揮できるものなのだ。とは、参謀・ワイズモンの言である。
『ならば隣はベルゼブモンか……』
ワイズモンが趣味十割で集めた資料や、ゼブブナイツに所属する十闘士の一人であるセフィロトモンのメモリからサルベージした過去の記録を元に、残る七種のスピリットをこうして探し回っているのだ。
正直な話、現状ではスピリットそのものというよりはそれに繋がる僅かなりの手掛かりでも、といったところだが。
『色の対比もいい感じ……いや待て、それならむしろ闇の闘士のほうが……』
つまるところ、当てがまるでないのである。ここが駄目なら次はあそこと、次第に拠点から離れた遠方へ足を伸ばし始めれば、やがて一日の大半を単なる移動に費やすことになる。
『むう、どうせ十闘士なら女の子同士のほうがいいだろうか……』
ぶっちゃけ暇だった。
世間話のネタも尽き、しりとりなんて暇潰しの極致のようなことをしたりもしたが、勿論そんなものを一日中続けられるわけもない。
『並び立つ光と水の闘士・ヴォルフモン&ラーナモン……む? ならばそもそも十闘士には女の子が既にもう一人いるではないか』
そんな折、渡された資料を眺めているとふと、スピリットを見付けたとして誰が新たな闘士になるのだろうかと、そんな疑問が頭を過ぎったのだ。
『十闘士の紅二点・フェアリモン&ラーナモン……!』
妄想のきっかけはそんなところ。暇潰しには、以外と悪くないネタだった。
『これだ! いやこれじゃない。何の話だ。そもそもジェネラルを前線に立たせてどうする』
ふうむと唸る「いの八番」を、前を行くモニタモン「ろの三番」がちらちらと見ていた。その視線にも、自らの顔のモニタに妄想がすべて映し出されていることにも「いの八番」はまだ気付かない。
『だとするならジェネラル・ヒナちゃん&ラーナモン……いや、十闘士にテイマーいらなくね?』
加速する妄想は既に元々の話など華麗に忘れ去っている。
『ならばジェネラル・ヒナちゃん&インプモン……!?』
ぴこーん、とモニタに電球が煌めいた。
『しっくり! これだ! いや、今まで通りだ!』
これまでの妄想がすべて時間の無駄に終わる結論を叩き出し、「いの八番」はふうと息を吐く。
今日も今日とて、モニタモンズは暇だった。
-終-