
【伊達眼鏡なマリーちゃん】
ある日のことです。
マリーちゃんは眼鏡をかけてみました。目が悪くなったからではありません。度が入っていない伊達眼鏡でした。なぜというならそこに眼鏡があったからです。
これであたしも知的に見えるかしら。
などという浅はかな考えがあったわけではありません。マリーちゃんは人生の八割方をインスピレーションで生きているのです。眼鏡があればかける。そこに理由はいりません。
とはいえ、マリーちゃんも年頃の女の子です。人からどう見えているのかは気になります。
似合うかしら。
と聞いてみたのはお友達のヒナちゃんです。マリーちゃんより2つ年上のお姉さんです。よくも悪くも正直なこのお姉さんならきっと忌憚のない意見を言ってくれることでしょう。
どうしたの、それ?
だそうです。成る程、当然の疑問でしょう。
そこにあったの。
マリーちゃんはありのままの事実を答えます。その赤ぶち眼鏡は食堂の机の上に置いてあったのです。なぜ置いてあったのかはわかりません。あったものはあったのです。
忘れ物かしら。
なんて言ってはみたものの、そんな訳はないのです。だってここはエルドラディモンの背中にそびえるお城の中なのですから。人間はたったの四人だけ。いつも眼鏡の男の子が一人だけいますが、こんな真っ赤な眼鏡をかけているところは見たことがありません
不思議ね。
と二人は首を傾げます。
そんな二人が、気付くことはついぞありませんでした。影から自分たちを見詰める、怪しいデジモンがいたことになど――
夢にも思わなかったことでしょう。
まさかその眼鏡が、ゼブブナイツ海軍第11後方支援部隊――通称“ラーナモン様ファンクラブ”に所属する会員番号0015番、“眼鏡萌えの怪鳥”の異名を取るトーカンモンの仕業であったことなど。そしてその後には会員番号0026番、“二の腕萌えの蜜蜂”ことハニービーモンが可愛いノースリーブを用意して待っていることも。
そしてファンクラブは今、「ラーナモン様一筋」派、「マリーちゃんペロペロ」派、「カルマーラモン様ぶってください」派、「みんな大好き」派の四派閥に分かれ、更には第五勢力として「オール・ハイル・ヒナタ!」派が台頭していましたが、それらはすべて余談です。
そうそれは――ある、とても平和な日のことでした。
-終-